冷徹CEOと、一夜から始まる溺愛契約
湊は少し眉を下げ、慈しむように私を見た。
「最初は、確かに憎んでいたかもしれない。だが、それ以上に……俺の中には、あの庭で笑っていたお前の姿が焼き付いていたんだ。恨むことより、お前にふさわしい男になることを選んだ。ただ、それだけだよ」
「湊……」
「そして三年前。俺は、高嶺不動産が危機に陥っていることを知った」
私の心臓が、激しく鳴る。
「俺は助けようとした。毎日、銀行や取引先を回って融資を頼み込んだ。だが――」
湊の目に、苦しみの色が浮かぶ。
「鳳華恋の父親の会社が、妨害をしてきたんだ」
「妨害?」
「ああ」
湊が唇を噛む。
「当時、俺は駆け出しの経営者だった。華恋の父は、俺に恩を売ろうとした。高嶺不動産への支援を条件に、俺の会社を傘下に収めようとしたんだ。だが、俺は断った。鳳の操り人形になって救うのではなく、俺自身が力をつけて、お前を救いたかったから」
「それで……」
「ああ。老獪な彼は、若造の俺に拒絶されたことを『最大級の侮辱』と受け取った」
湊が、奥歯を噛み締める。その表情には、当時の無力感が滲んでいた。
「そして、業界全体に圧力をかけた。『高嶺不動産に手を貸す者は、鳳家を敵に回すと思え』と」
私の血の気が引く。
あんなに必死に駆け回っていた、父の背中。あの絶望の裏に、そんな卑劣な策略があったなんて。
「結果、すべての融資が止まった。俺の意地が、お前の家を追い詰めてしまったんだ」
湊が、絞り出すような声で言った。
「もし俺が、もっと上手く立ち回っていれば……あの時、意地を捨てて土下座でもしていれば、倒産は避けられたかもしれない。すまない、紗良」