冷徹CEOと、一夜から始まる溺愛契約
「救いなんかじゃありません。もう、逃げる理由なんてどこにもない。私は、ずっとあなたの隣にいたいんです」
私は湊の手を強く握り返した。湊が深く息を吐き、憑き物が落ちたように穏やかな笑みを浮かべる。
「……そうか。お前の不安に気づけず、苦しい思いをさせたな」
「ううん、もういいの。これからは、全部二人で話していけばいいから」
「なら、これはもういらないな」
湊は迷いなく、二人の間にある「義務」を断ち切るように契約書を引き裂いた。
二人の関係を縛っていた紙片が、冬の終わりの雪のように、ただの白い破片になって舞い落ちる。
「これで俺たちは、正真正銘の夫婦だ」
「ええ。ずっと、離さないでくださいね」
燃えるような夕焼けが、私たちの門出を祝福するように赤く輝いていた。
「紗良」
湊が、私の名前を呼ぶ。
「今から、お前のお父様に会いに行こう」
「え?」
「きちんと、挨拶をしたい。改めて、お前との結婚を認めてもらいたい」
その言葉に、心がじんわりと温かくなる。
私たちは、父の病院へ向かった。
◇
病室のドアをノックする。
「お父さん、紗良だよ。湊も一緒」
「ああ、入っておいで」
父は、ベッドに座って本を読んでいた。
表情は穏やかで、以前よりずっと元気そうだ。
「桐生くん……」
湊を見た父が、目を見張る。