冷徹CEOと、一夜から始まる溺愛契約

「救いなんかじゃありません。もう、逃げる理由なんてどこにもない。私は、ずっとあなたの隣にいたいんです」

私は湊の手を強く握り返した。湊が深く息を吐き、憑き物が落ちたように穏やかな笑みを浮かべる。

「……そうか。お前の不安に気づけず、苦しい思いをさせたな」

「ううん、もういいの。これからは、全部二人で話していけばいいから」

「なら、これはもういらないな」

湊は迷いなく、二人の間にある「義務」を断ち切るように契約書を引き裂いた。

二人の関係を縛っていた紙片が、冬の終わりの雪のように、ただの白い破片になって舞い落ちる。

「これで俺たちは、正真正銘の夫婦だ」

「ええ。ずっと、離さないでくださいね」

燃えるような夕焼けが、私たちの門出を祝福するように赤く輝いていた。

「紗良」

湊が、私の名前を呼ぶ。

「今から、お前のお父様に会いに行こう」

「え?」

「きちんと、挨拶をしたい。改めて、お前との結婚を認めてもらいたい」

その言葉に、心がじんわりと温かくなる。

私たちは、父の病院へ向かった。



病室のドアをノックする。

「お父さん、紗良だよ。湊も一緒」

「ああ、入っておいで」

父は、ベッドに座って本を読んでいた。

表情は穏やかで、以前よりずっと元気そうだ。

「桐生くん……」

湊を見た父が、目を見張る。
< 116 / 149 >

この作品をシェア

pagetop