冷徹CEOと、一夜から始まる溺愛契約

「……やはり、君だったか」

湊が深々と頭を下げると、父は本を置き、静かに彼を見つめた。

「お久しぶりです、お父様。……桐生湊です」

「君が紗良の前に現れたと聞いた時、すぐに分かったよ。あの日、私の自分勝手な都合で追い出してしまった、あの庭師の息子だとね」

父が自嘲気味に笑い、湊に歩み寄る。

「紗良に『気をつけろ』なんて言ったのは、君が憎かったからじゃない。私が君に、復讐されるのが怖かったんだ。君には、その権利があると思っていたからね」

湊が驚いたように顔を上げる。

「そんな……。僕がお父様を恨むことなんて、ありません」

「そうか。……君のお父さんは、元気にしているか?」

「はい。事故の後遺症で少し足は不自由ですが、無理のない範囲で、今も庭師として鋏を握っています」

「そうか、それは良かった」

父が安堵の表情を見せる。

「お父様」

湊が、再び深く頭を下げる。

「三年前、僕はお父様の会社を救えませんでした。本当に……本当に、申し訳ありませんでした」

湊の肩が、小刻みに震えている。

十五年分の重圧と、救えなかった自責の念。その重みに耐えかねたような彼の姿に、私はたまらず手を伸ばした。
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