冷徹CEOと、一夜から始まる溺愛契約

「高嶺邸……お前の帰るべき場所だ、紗良」

湊の声が、春風のように優しく耳元で響いた。

かつて、私が暮らしていた家。

父の会社が倒産し、二度と跨ぐことはないと思っていた門。

「なんで……」

「降りよう」

湊が車を降りて、助手席のドアを開けてくれる。

彼に手を引かれて、外に出る。

門の前に立つと、懐かしさが込み上げてきた。

「三ヶ月前、この家が売りに出されているのを知って。俺が買い戻したんだ」

「そんな、どうしてそこまで……」

「この家が、他の誰かの手に渡るのが耐えられなかったんだ。ここは、紗良の大切な場所だから。買い戻すために、とにかく必死だった」

湊の言葉に、喉の奥が熱くなる。

「お前が育った場所。お前の思い出が詰まった場所。だから、絶対に守りたかった」

湊が、ふわりと微笑む。

「さあ、入ろう」

湊が門を開けると、懐かしい庭が目の前に広がった。

庭は、綺麗に手入れされていた。

芝生は鮮やかな緑色に刈り揃えられ、木々も丁寧に剪定されている。

うららかな光を浴びて、萌え出でたばかりの若葉がまばゆい。

「……俺の親父が、ずっと手入れをしてくれていたんだ。お前がいつか帰ってきた時に、変わらない風景があるようにって」

え、湊のお父さんが?

視界が滲む。彼の父も、この場所を愛し続けてくれていたのだ。

湊が、私の涙をそっと指先で拭ってくれる。

「泣くのは、まだ早いぞ」

「え?」

「中に、見せたいものがある」

湊が私の手を取り、玄関へ向かう。
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