冷徹CEOと、一夜から始まる溺愛契約
それは、名刺だった。
「これを持っていてくれ」
「え……でも、忘れる約束じゃ」
「約束を破ることになるが――」
彼の手が、私の手を包み込む。
「お前を、放っておけない。困ったことがあったら、必ず連絡してくれ」
真剣な眼差し。まるで、私を守ると誓っているような。
私は名刺を受け取った。
『MINATO Holdings CEO 桐生湊』
え。CEO? この人、会社の社長なの?
しかも、MINATO Holdings――最近、経済ニュースでよく見る、急成長中のIT企業。
「驚いたか。だが、今は気にしないでくれ」
彼が立ち上がり、私の前に立つ。そして、私の頬に手を添えた。
「紗良。やっぱり、お前のことを忘れられそうにない」
「……私も」
本音が、口をついて出た。彼が切なそうに微笑む。
「いつか、また会えるといい。その時は――ちゃんとお前を守れる準備をしておく」
その言葉の意味を聞く前に、彼は私の唇に軽くキスをした。
「行け。タクシーを呼んである」
「……ありがとうございます」
私は服を拾い、急いで着る。湊さんは何も言わず、ただ私を見つめていた。
母の形見のネックレスを着け、バッグを掴み、私はドアへ向かう。
振り返らない。振り返ったら、きっと動けなくなる。
ドアを開け、廊下へ出る。そして――走った。