冷徹CEOと、一夜から始まる溺愛契約
「俺がお前を守りたいからだ」
「守るって……どうして?」
湊さんが、目を伏せる。
「俺は――お前を、昔から……」
え? 昔から?
私たちの接点は、あの夜が初めてのはずなのに。
「……いや、今は言えない」
言葉が途切れる。湊さんの表情に、言いたくても言えないような苦悩が浮かんでいる。
「理由が言えないなんて……」
「いつか、必ず話す。今は、ただ――俺を信じてほしい」
湊さんが立ち上がり、デスクから別の書類を持ってくる。
『婚姻契約書』
「えっと、これは……」
「ここに書いているとおり、契約期間は半年。その間、お前は俺のマンションに住む。人前では夫婦として振る舞う」
湊さんが、契約書を指差しながら説明を続ける。
「お前の父親の治療費、生活費は俺が負担する。そして半年後、お前が望めば円満に離婚する」
半年だけの、偽りの結婚。それでも――父のためなら。
「もちろん、お前が望まない限り、夫婦としての義務を求めることはない」
その言葉の最後が、微かに寂しげだった。
胸の奥が、ちくりと痛む。
……義務を求めない? それじゃあ、あの夜のことは、ただの間違いだったの?