冷徹CEOと、一夜から始まる溺愛契約

湊が私を連れて行ったのは、銀座の裏通りに佇む、高級ジュエリー店だった。

重厚なドアに、洗練されたショーウィンドウ。お店の前に立っただけで、気後れしてしまう。

「あの……こんなところ、私には……」

「入るぞ」

強引な響き。だが、背中を押す手は労わるように優しい。

ドアが開くと同時に、柔らかなクラシック音楽が流れてくる。

「桐生様、お待ちしておりました」

店員が深々とお辞儀をする。それは、かつて父の傍らで受けていたものよりも、ずっと仰々しく、重々しい敬意だった。

「お二人の結婚指輪ですね。こちらへどうぞ」

案内されたのは、白を基調とした静謐(せいひつ)な個室。テーブルには、すでに厳選された指輪が並べられていた。

プラチナ、ゴールド、そして煌めくダイヤモンド。

かつての生活を思い出させる、けれど今の私にはあまりに遠い、溜息が出るほど高価な品々だ。

「こちらが今季の新作でございます」

店員が、いくつか指輪を取り出す。

私は緊張しながら、一つ手に取った。

繊細なデザイン。小さなダイヤが並んでいる。

「これ、素敵……」

「試してみろ」

彼に促されるままに左手の薬指へ滑らせると、吸い付くように馴染んだ。

「お似合いですよ」

店員の言葉に顔をほころばせたが、湊の声がそれを遮った。

「いや、これじゃない。もっと特別なものはないか」

店員の表情が変わった。

「特別、でございますか?」

「世界で一つだけの指輪を作りたい。オーダーメイドだ」

店員の目がキラキラと輝く。

「かしこまりました。デザインは?」

「俺が考える」

湊の目が私を捉えた。そこには、あの夜と同じ熱が宿っている。
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