冷徹CEOと、一夜から始まる溺愛契約

夢見心地だった宝石店での出来事から、一週間。

薬指に残る湊の指先の熱を時折思い出しながら、私は結婚の報告をするため、父が入院する病院の重いドアを叩いた。

「お父さん……体調はどう?」

ベッドで上半身を起こしていた父が、私を見て穏やかに目を細める。

「ああ、紗良か。仕事、無理してないか?」

父の優しい声が、今の私には痛いほど刺さった。

「うん、大丈夫だよ」

これから嘘をつくと思うと、心が重い。

けれど、私が湊に手渡した『書類』一つで、この人を救えるのだ。

私は膝の上で拳を握りしめ、意を決して切り出した。

「お父さん、驚かないで聞いて。……私ね、結婚することになったの」

父の手が、目に見えて震えた。

「結婚? 本当か!?」

「うん。相手は、桐生湊さん。二十八歳の実業家の方で……」

「桐生……湊?」

父の表情が、一瞬にして氷付いた。

「もしかして……あの、MINATO Holdingsの?」

驚きを通り越し、どこか怯えを含んだような――明らかに苦しげな色。

「うん。お父さん、彼のこと知ってるの?」
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