冷徹CEOと、一夜から始まる溺愛契約
「いや……」
父は露骨に視線を逸らした。握りしめられたシーツに、不自然なほどの皺が寄る。
「名前を……聞いたことがあるだけだ」
嘘だ。父は、絶対に何か知っている。桐生湊という名前に、明らかに反応していた。
「紗良」
父が、氷のように冷たい手で私の手を掴んだ。
「お前……本当に、愛し合っているのか? その……無理をしているんじゃないのか?」
父の瞳の奥に、切実な問いかけが見える。
「……はい。ちゃんと、愛し合っています」
震えそうになる声を、必死で抑え込んだ。父を救うためには、この嘘を突き通すしかない。
「彼は、とてもいい人なの。少し、強引なところもあるけど……優しくて、頼りになって」
それは半分、真実だった。けれど、父を安心させるために重ねた言葉が、私の胸をチリリと焼く。
「そうか」
父が、そっと目を閉じた。
「お前が幸せなら、それでいい。だが、紗良――」
父の声が、かすかに震える。
「もし、辛いことがあったら、すぐに私に言うんだぞ。お父さんは、どんな時だってお前の味方だから」
「……っ、ありがとう、お父さん」
「それから……」
父は私の目を真っ直ぐ見つめ、声を落とした。
「桐生という男には、気をつけろ。あの一族は過去に……」