冷徹CEOと、一夜から始まる溺愛契約

「ただいま」

湊の声。

リビングから玄関へ向かうと、湊がコートを脱いでいた。

「お帰りなさい」

エプロンの端を少しだけ握って言葉にすると、胸の奥がくすぐったい。

誰かの帰りを待って、灯りの下で迎える。

こんな当たり前の日常が、これほど特別に感じられるなんて。

湊が、私を見やった。そして、不意を突かれたような表情になる。

「どうかしましたか?」

「いや……お前がここで待っていてくれる光景が、あまりに眩しくてな」

湊が、微かに微笑む。

「まだ、夢を見ている気分だ」

その笑顔を見て、心が温かくなる。

「あの……夕食を、作ったんです」

「え、紗良が?」

湊の目が、大きく見開かれる。

まるで、本当に予想外だったように。

「はい。あの、一応あなたの妻なので……」

自分で言っておきながら、耳まで赤くなるのが分かった。

妻、という言葉を口にするのが、まだ恥ずかしい。

「ありがとう」

湊の声は、穏やかだった。

「着替えてくる。待っていてくれ」

湊が、自分の部屋へ向かう。

私は、ダイニングテーブルに料理を並べる。

肉じゃが、ご飯、味噌汁、漬物。質素な食事だ。

湊は満足してくれるだろうか――少し不安になる。
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