冷徹CEOと、一夜から始まる溺愛契約
「はい……ただ、少し心臓の音がうるさくて」
「分かっているとは思うが……会社では、俺たちの関係は秘密だ」
湊が、声音を潜めて告げる。
「お前は一般社員として、広報部に配属される」
「わかりました」
「だが」
湊が私の手を包み込む。
「何か困ったことがあったら、すぐに俺に言ってくれ」
「はい」
湊の手の温もりが、緊張をわずかに和らげてくれた。
◇
「紗良。さっき、会社では秘密だと言ったが……建物の前で降ろすわけにはいかないから、地下の役員専用駐車場まで一緒に行く。そこからは、別々のエレベーターだ」
家を出る直前、湊が私に真剣な面持ちで念を押した。
秘密の作戦を共有しているような緊張感に、私はただ小さく頷いた。
会社に着くと、湊は瞬時に社長モードに切り替わった。
「では、高嶺さん。頑張ってください」
丁寧な口調。まるで、今日初めて会う他人に接するように。
「はい。ありがとうございます」
私も、背筋を伸ばして答えた。
湊が、社長専用のエレベーターへ向かう。
その背中を見送りながら、不思議な感覚に襲われた。
さっきまで朝食を一緒に食べていた人が、今は遠い存在に見える。
冷徹なCEO。それが、湊の仕事モードなんだ。
エレベーターに乗る直前、湊がこちらを振り返った。
一瞬だけ。誰にも気づかれないほど短い時間。
その瞳が、そっと私を見つめる。