冷徹CEOと、一夜から始まる溺愛契約

「はい……ただ、少し心臓の音がうるさくて」

「分かっているとは思うが……会社では、俺たちの関係は秘密だ」

湊が、声音を潜めて告げる。

「お前は一般社員として、広報部に配属される」

「わかりました」

「だが」

湊が私の手を包み込む。

「何か困ったことがあったら、すぐに俺に言ってくれ」

「はい」

湊の手の温もりが、緊張をわずかに和らげてくれた。



「紗良。さっき、会社では秘密だと言ったが……建物の前で降ろすわけにはいかないから、地下の役員専用駐車場まで一緒に行く。そこからは、別々のエレベーターだ」

家を出る直前、湊が私に真剣な面持ちで念を押した。

秘密の作戦を共有しているような緊張感に、私はただ小さく頷いた。

会社に着くと、湊は瞬時に社長モードに切り替わった。

「では、高嶺さん。頑張ってください」

丁寧な口調。まるで、今日初めて会う他人に接するように。

「はい。ありがとうございます」

私も、背筋を伸ばして答えた。

湊が、社長専用のエレベーターへ向かう。

その背中を見送りながら、不思議な感覚に襲われた。

さっきまで朝食を一緒に食べていた人が、今は遠い存在に見える。

冷徹なCEO。それが、湊の仕事モードなんだ。

エレベーターに乗る直前、湊がこちらを振り返った。

一瞬だけ。誰にも気づかれないほど短い時間。

その瞳が、そっと私を見つめる。
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