冷徹CEOと、一夜から始まる溺愛契約

『疲れているようだったから。
休憩時間にどうぞ』

この字は、湊だ。

嬉しいけれど、さすがに出勤初日からデスクで広げるわけにはいかない。

どうしようか迷っていると、隣のデスクの本橋さんがひょいと顔を覗かせた。

「あら、高嶺さん。もしかしてそれ、差し入れ?」

「あ、はい。そうみたいです」

「有名店のじゃない、いいわね。初日で緊張してたでしょう? 糖分補給は大事よ。あ、誰からかは聞かないでおくわね」

本橋さんは私の困り顔を察したのか、優しくリフレッシュルームの方を指差した。

「ここは私が。十数分くらい、休憩室でゆっくり食べてきなさいな。上司には、上手く言っておいてあげるから」

「本当ですか? ありがとうございます!」

先輩の温かい配慮に甘え、私は保冷バッグを閉じると、足早にリフレッシュルームへと向かった。

幸い、中には誰もいない。

窓際の席に座り、こっそりと箱を開ける。

「いただきます……」

私は、さっそくケーキを一口食べた。

「んんーっ!」

生クリームがなめらかで、いちごが甘酸っぱくて美味しい。

疲れた体に、砂糖の魔法が沁みわたる。

会社の誰も知らない、私だけの秘密の味。

湊、社長として忙しいはずなのに。私のことまで、ちゃんと気にかけてくれるなんて。

会社では他人のふりをしているけれど、やっぱり優しい。

私は、メモをそっとポケットにしまった。

このメモは、大切にしよう。
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