冷徹CEOと、一夜から始まる溺愛契約
「え? あ、はい……そうでした」
慌てて答える。
約束なんて、もちろんない。けれど湊の有無を言わさぬ威圧感に、私はたじろぐことしかできなかった。
「そ、そうなんですか。じゃあ、高嶺さんまた今度!」
湊に鋭い眼差しを向けられた中谷さんは、慌てて退散していった。
ふう、助かった……。
エレベーターで二人きりになると、私は思い切って湊に尋ねた。
「あの、このあと予定なんてありませんでしたよね?」
湊が視線を逸らす。
「……すまない。つい」
「つい?」
「頭ではわかっているんだが、お前が他の男と笑っているのを見ると――」
湊の声が、低く震える。
「我慢できなくて。体が勝手に動いていた」
その言葉に、喉の奥が熱くなる。
それって、もしかして……。
「でも……私たち、契約で……」
「わかってる。お前は半年後、俺の元を離れる」
エレベーターが、地下駐車場に到着する。
「だが、今は――」
チンッと音が鳴り、扉が開く。
「今この瞬間、お前の隣に立つ権利があるのは俺だけだ」
湊が先に降りる。その背中がどこか寂しそうで、溢れ出しそうな衝動を必死に抑え込んでいるように見えた。
私は、胸がキュッと締め付けられる。
たぶん、湊は嫉妬してくれたんだ。
契約だと言いながら、私のことを……。
社員たちの目が届かない地下駐車場の隅で、私は湊の車の助手席に滑り込んだ。
張り詰めたような沈黙が、車内を支配する。