冷徹CEOと、一夜から始まる溺愛契約

湊がエンジンをかけ、車が動き出す。

――お前は俺のものだ。

耳の奥で、彼の声が何度も蘇る。

私たちは契約で始まった、偽りの関係。なのに、彼の言葉はどんどん本物の夫のように熱を帯び、私の心はそれに呼応するように揺れ始めている。

半年経てば、今の関係は終わるのに。

そう、自分に言い聞かせるほどに、その終わりが怖くなっていった。



その夜、静まり返ったリビング。

ソファで書類を追う湊の隣に腰を下ろし、私は読書に耽っていた。

時計の秒針だけが響くなか、ふと視線を感じて顔を上げると、湊が優しく目を細めていた。

「どうかしましたか?」

「いや……お前がここにいるのが、まだ奇跡のように思えて。この時間を、俺はずっと待ち焦がれていた気がするんだ」

その言葉に、また心臓が跳ねる。

「私も…… とても、落ち着きます」

二人で微笑み合う、穏やかで幸福な沈黙。

やがて十一時を回り、私たちはそれぞれの部屋の前で向かい合った。

「おやすみ、紗良。また明日」

湊が私の頭をぽんぽんと撫で、自室へと消える。

「おやすみなさい」

ドアを閉めた瞬間、不意に心細さが押し寄せてきた。

ついさっきまで隣で感じていた彼の体温が、恋しい。

壁一枚隔てた向こうに湊がいるのに、触れることができないなんて。
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