冷徹CEOと、一夜から始まる溺愛契約
「あの人、桐生社長の奥様?」
「どこのご令嬢かしら」
ひそひそと囁く声が耳に届き、鼓動が速まる。
私は、ここにいていいのかな。
没落した令嬢。この華やかな世界に、相応しくない存在。
「紗良」
湊が私の腰に手を回す。
「俺の妻として、堂々としていろ」
その言葉に背筋が伸びる。
そうだ。私は桐生湊の妻。彼のためにも、ちゃんとしよう。
「桐生社長、お疲れ様です」
すぐに、何人もの人が湊に近づいてきた。
「昨年は、素晴らしい業績でしたね」
「いえ、鈴木さんのほうこそ……」
湊は、流暢に挨拶を返していく。
そして、私を紹介する。
「妻の紗良です」
その言葉に、周囲の視線が一斉に私に注がれる。
「初めまして。桐生紗良と申します」
私は、できるだけ落ち着いた声で挨拶をする。
「まあ、お若い奥様ですね」
「お綺麗な方だ」
社交辞令だと分かっていても、その言葉に少しだけほっとする。
湊は、私の隣から離れない。まるで、私を守るように。
その存在が、何よりも心強かった。