冷徹CEOと、一夜から始まる溺愛契約
一歩、二歩。最初はぎこちなく、私の足が湊の足を踏みそうになる。
「ごめんなさい……」
「いい。俺に集中して」
湊がそっと囁く。
「周りは気にするな。俺だけを見ていてくれ」
その言葉に従って、私は湊の目を見つめる。
深い色をした瞳の中に、私だけが映っている。
湊のリードは、驚くほど優雅で強引だった。私のステップの迷いなど、彼がすべて包み込んで消し去ってしまう。
気づけば私たちは、音楽の一部になったかのように、しなやかにフロアを滑っていた。
周囲の視線も音楽も、すべてが遠のいていく。
今、この瞬間――世界には、私たち二人だけしか残されていないかのような錯覚に陥る。
シャンデリアの光が、私たちを包み込む。
湊が私を大きく回転させる。スカートがふわりと広がり、引き寄せられた。
「紗良」
湊が私の名前を呼ぶ。
「今、お前とこうして踊れることが嬉しい」
普段の冷静な湊とは違う。どこか切なげな響き。
「私も……」
言葉が続かない。ただ、胸がいっぱいになる。
音楽が、クライマックスへ向かっていく。
「この瞬間が、永遠に続けばいいのに」
私の耳元で囁いた彼の声が、微かに震えていた。
――どうして、そんなに切ない声で、壊れそうなものを扱うように私を抱くの?
曲が終わり、拍手が降り注ぐ中でも、私たちはすぐには離れられなかった。離れたくなかった。
湊が私の手の甲を自分の方へ引き寄せ、ゆっくりと唇を落とす。
手袋越しではない、生々しい唇の熱が肌に刻まれ、心臓が跳ねた。
「ありがとう、紗良」
顔を上げた湊の瞳には、深い愛情と、そして――今にも消えてしまいそうな僅かな不安が宿っていた。