冷徹CEOと、一夜から始まる溺愛契約

「ビジネスパートナーですわ」

華恋さんが、艶やかな笑みを浮かべる。

「父の会社が、MINATO Holdingsと長年取引させて頂いてるの。湊さんが起業された頃から、ずっと」

その言葉に、少し胸がざわつく。

長年、という言葉。つまり、この人は湊のことを、私よりずっと長く知っているということ。

「あなたは、湊さんとはいつ知り合われたの?」

「それは……」

言葉に詰まる。あの夜、バーで出会ったなんて言えるわけがない。

「最近です」

「まあ、最近。それで、もうご結婚されたのね」

華恋さんの声が、かすかに低くなる。

「随分と、急な展開だったのね」

その言葉に込められた意味を、私は感じ取る。

この人は、私を試しているんだ。

「ところで、奥様は以前どちらの令嬢でしたの?」

その問いに、喉の奥がキュッと締まる。

かつての私なら、堂々と父の会社の名前を言えただろう。けれど、今の私は――。

「いえ……。私はただの、派遣社員でした。いくつかの会社を、転々と……」

「まあ、派遣!」

華恋さんの眉がぴくりと動く。その視線は、もはや私を対等な人間としては見ていない。

湊が私の肩を抱く手にぐっと力を込め、私を庇うように一歩前へ出た。

「鳳さん。妻を侮辱するような言動は、二度としないで頂きたい。彼女の経歴は、彼女自身の努力の証だ。俺は、そんな妻を誇りに思っている」

湊の鋭い制止に、華恋さんは楽しげに肩をすくめた。

「あら、失礼。そういうつもりじゃなかったのよ」

華恋さんが私を見る。

「でも、湊さんも随分と……冒険をされたのね。三年前の『高嶺不動産』の件を思えば、なおさらだわ」
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