冷徹CEOと、一夜から始まる溺愛契約
――夫。
その言葉が喉元まで出かかって、胸がチリリと痛んだ。
本当に、湊は私の夫なのだろうか。秘密を抱えたまま、本当の夫婦と言えるのだろうか。
「私の……大切な人ですから」
最後は、そう言った。
湊が微かに微笑む。
「お前がいてくれて……本当に、良かった」
そう呟いて、湊は眠りに落ちた。
◇
私は、その夜ずっと湊のそばにいた。
定期的にタオルを替え、水を飲ませる。
体温は徐々に下がっていく。三十八度五分、三十八度……。
その数字を見るたび、ほんの少しずつ肩の荷が下りた。
時計を見ると、午前一時過ぎ。
看病を始めて、三時間が経過していた。だけど、不思議と疲れは感じない。
ただ、湊のそばにいたい。湊が苦しんでいる時、一人にしたくない。
◇
午前三時頃。湊がうなされ始めた。
「紗良……」
苦しそうに呻く。
私は、すぐに湊の手を握った。
「ここにいますよ。大丈夫」
だけど、湊は目を覚まさない。
「ごめんな……」
その声が切実で、心が痛む。
「守れなくて……」
守れなくて? 何を?
「お父様の……あの家を……っ」
その瞬間、時が止まった。
――お父様?
家って……もしかして、私たちが没落する前に住んでいた、高嶺邸のこと?