冷徹CEOと、一夜から始まる溺愛契約

――夫。

その言葉が喉元まで出かかって、胸がチリリと痛んだ。

本当に、湊は私の夫なのだろうか。秘密を抱えたまま、本当の夫婦と言えるのだろうか。

「私の……大切な人ですから」

最後は、そう言った。

湊が微かに微笑む。

「お前がいてくれて……本当に、良かった」

そう呟いて、湊は眠りに落ちた。



私は、その夜ずっと湊のそばにいた。

定期的にタオルを替え、水を飲ませる。

体温は徐々に下がっていく。三十八度五分、三十八度……。

その数字を見るたび、ほんの少しずつ肩の荷が下りた。

時計を見ると、午前一時過ぎ。

看病を始めて、三時間が経過していた。だけど、不思議と疲れは感じない。

ただ、湊のそばにいたい。湊が苦しんでいる時、一人にしたくない。



午前三時頃。湊がうなされ始めた。

「紗良……」

苦しそうに呻く。

私は、すぐに湊の手を握った。

「ここにいますよ。大丈夫」

だけど、湊は目を覚まさない。

「ごめんな……」

その声が切実で、心が痛む。

「守れなくて……」

守れなくて? 何を?

「お父様の……あの家を……っ」

その瞬間、時が止まった。

――お父様?

家って……もしかして、私たちが没落する前に住んでいた、高嶺邸のこと?
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