隣にいる理由〜選ばれるはずのなかった私が、あなたの妻になるまで〜
 画面には、先ほど私が押した番号とは違う番号が表示されている。
 これ、だれ……?
 最近はやりの詐欺電話だと怖いと思った私は、留守番電話に切り替わるまでそのまま放置して様子を見ることにした。もし間違い電話だったら相手も気まずいだろうし、私自身も知らない人と会話をして、気持ちが疲弊することを避けたかった。
 
 そう思っていたら、早々に留守番電話に切り替わった。
 すると……

 着信の相手は、なんと神田さんだった。
 文字起こしの留守番メッセージには、名刺の番号は仕事用のものだから、プライベートのものからかけ直したとある。
 私はメッセージの内容を確認すると、先ほどの見知らぬ番号に連絡を入れた。

 こちらから発信ボタンを押すときは、相手の都合を考える癖がある。迷惑な時間帯ではないか、作業を中断させてしまうのではないかと、いつも緊張する。
 けれど今回は折り返しの連絡だから、そこまでの緊張はない。
 
 呼び出し音が一度鳴った後すぐ、通話が繋がった。

「もしもし」

 私の声を確認すると、神田さんが口を開いた。

『ああ、先ほどは電話を切ってしまって失礼しました。プライベートの通話なので、こちらの番号をお伝えしなければと思って……。仕事は終わりましたか?』

「はい、今、職場から外に出たところです」

『ああ、わかりました』

 スマホのスピーカーから聞こえる声を聴きながら、私は周囲を見渡すと、フィットネス施設のお客様駐車場のところに、見慣れない車が停車していた。
 私には縁のない、窓ガラスにスモークフィルムの張られた高級車から、一人の男性が降りてくる。
 そう、今朝とは身なりが違うけれど、間違いない。スイートルームで倒れていた神田さん、その人だった。

「改めまして、こんばんは」

「こんばんは」

 今朝のレギンス姿を見慣れているだけに、スーツ姿は新鮮だ。先日倒れていた時もスーツ姿だったけれど、救急搬送直前だったので、こうやって落ち着いてじっくりと姿を見る余裕なんてなかった。

「連絡ありがとう。この前のお礼を兼ねて、食事に行きましょう」

 神田さんはそう言うと、私を車に乗るよう案内する。私は言われるがまま、彼の後に続いた。
 車の助手席のドアが開き、そこへ座るよう促され、私は緊張しながら車へ足を踏み入れた。

 普段通勤も電車だし、こんな高級車に乗る機会がない私は、粗相があっては大変だと気が抜けないでいる。そんな私を見て、神田さんは「緊張するような車じゃないから安心して」というけれど、その言葉を真に受けるわけにはいかない。
 私がシートベルトを締めたのを確認すると、車は静かに走り出す。
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