隣にいる理由〜選ばれるはずのなかった私が、あなたの妻になるまで〜
日頃見慣れているはずの景色も、車の中から眺めると、不思議と印象ががらりと変わって見える。
助手席で車窓の景色に気を奪われていたけれど、今日の彼の匂いは、この前と比べて疲労の匂いが和らいでいる。それでもまだ、ほかの人に比べると疲労の匂いは強いけれど、この前部屋で倒れていた時に比べたら随分と改善されていると思う。
あれから、きちんと病院で食生活などの指導を受けて、それをしっかり守っている証拠だろう。
ホッとして肩から力が抜けた私を見て、緊張が解けたと思ったのだろう。
私の特異な嗅覚のことを、この人は知らない。
私たちは無言のまま、車でレストランへと向かっていた。
到着したのは、車で30分ほど離れた住宅街にある隠れ家レストランだった。個人宅での経営で、一日一組のみの完全予約制。なかなか予約が取れない隠れた名店だとメディアで紹介されるほどのお店だったのだ。だから神田さんがあれだけ私に圧をかけたのだと、ようやく理解できた。
店の駐車場は、個人宅の駐車場に来客用のスペースが確保されており、彼はそこに車を停めた。
私も彼の後について、個人宅の玄関に入ると、コックコートに身を包んだオーナーに案内されて部屋に入った。
そこは8畳くらいの洋室で、部屋の中央にテーブルと椅子が配置され、壁面には大きく引き伸ばされた写真が飾られている。その写真は、天の川を含む満天の星空だ。
部屋のスピーカーから、音量は絞られていたけれど、ピアノの音色の曲が流れていた。
間接照明に照らされた部屋の中は、俗世間から切り離されたような気分になった。私は思わずうっとりとしてしまった。
「どう? 気に入ってくれた?」
「はい。こんな素敵なお店、きっとこれから先も来ることはないと思います……」
部屋を見回しながら立ち尽くす私に、神田さんは着席を促した。
私は言われるがまま席に着くと、前菜とドリンクが運ばれてきた。
神田さんは運転手なのでもちろんノンアルコールだ。
私もお酒が得意でないため、神田さんと同じものをお願いして、テーブルの上に並べられた。
「次々と食事が出てくるから、テーブルが食器で埋め尽くされる前に食べようか」
そう言って神田さんはカトラリーの中からフォークとナイフを取り出した。
ご丁寧に、この中には箸も用意されている。私は迷わず箸を選ぶと、神田さんも「使いやすいものを使うといい」と言って微笑んだ。
ここはイタリアンのお店らしく、前菜を食べ終えると第一の皿にたっぷりとチーズのかかったピザが出てきた。
主食は最後に出てくるものなのではないかと疑問に思ったけれど、イタリア料理のコースではこの順番が正式らしい。
ピザを食べ終えると今度はメインディッシュの肉料理が出てきた。付け合わせのサラダも一緒だ。牛の頬肉をじっくりと煮込んだものに、生ハムと野菜のサラダがとても合う。
正直言ってどれも美味しいと思うけれど、非日常的な体験と空間のおかげで、味を覚える余裕がない。感想を求められても、「美味しいです」と、語彙力皆無の感想しか出てこない。
助手席で車窓の景色に気を奪われていたけれど、今日の彼の匂いは、この前と比べて疲労の匂いが和らいでいる。それでもまだ、ほかの人に比べると疲労の匂いは強いけれど、この前部屋で倒れていた時に比べたら随分と改善されていると思う。
あれから、きちんと病院で食生活などの指導を受けて、それをしっかり守っている証拠だろう。
ホッとして肩から力が抜けた私を見て、緊張が解けたと思ったのだろう。
私の特異な嗅覚のことを、この人は知らない。
私たちは無言のまま、車でレストランへと向かっていた。
到着したのは、車で30分ほど離れた住宅街にある隠れ家レストランだった。個人宅での経営で、一日一組のみの完全予約制。なかなか予約が取れない隠れた名店だとメディアで紹介されるほどのお店だったのだ。だから神田さんがあれだけ私に圧をかけたのだと、ようやく理解できた。
店の駐車場は、個人宅の駐車場に来客用のスペースが確保されており、彼はそこに車を停めた。
私も彼の後について、個人宅の玄関に入ると、コックコートに身を包んだオーナーに案内されて部屋に入った。
そこは8畳くらいの洋室で、部屋の中央にテーブルと椅子が配置され、壁面には大きく引き伸ばされた写真が飾られている。その写真は、天の川を含む満天の星空だ。
部屋のスピーカーから、音量は絞られていたけれど、ピアノの音色の曲が流れていた。
間接照明に照らされた部屋の中は、俗世間から切り離されたような気分になった。私は思わずうっとりとしてしまった。
「どう? 気に入ってくれた?」
「はい。こんな素敵なお店、きっとこれから先も来ることはないと思います……」
部屋を見回しながら立ち尽くす私に、神田さんは着席を促した。
私は言われるがまま席に着くと、前菜とドリンクが運ばれてきた。
神田さんは運転手なのでもちろんノンアルコールだ。
私もお酒が得意でないため、神田さんと同じものをお願いして、テーブルの上に並べられた。
「次々と食事が出てくるから、テーブルが食器で埋め尽くされる前に食べようか」
そう言って神田さんはカトラリーの中からフォークとナイフを取り出した。
ご丁寧に、この中には箸も用意されている。私は迷わず箸を選ぶと、神田さんも「使いやすいものを使うといい」と言って微笑んだ。
ここはイタリアンのお店らしく、前菜を食べ終えると第一の皿にたっぷりとチーズのかかったピザが出てきた。
主食は最後に出てくるものなのではないかと疑問に思ったけれど、イタリア料理のコースではこの順番が正式らしい。
ピザを食べ終えると今度はメインディッシュの肉料理が出てきた。付け合わせのサラダも一緒だ。牛の頬肉をじっくりと煮込んだものに、生ハムと野菜のサラダがとても合う。
正直言ってどれも美味しいと思うけれど、非日常的な体験と空間のおかげで、味を覚える余裕がない。感想を求められても、「美味しいです」と、語彙力皆無の感想しか出てこない。