隣にいる理由〜選ばれるはずのなかった私が、あなたの妻になるまで〜
「わかった。じゃあ、楠野さんの言う通りにする。食材などを買う時は、このカードを使って」
そう言って、お財布の中から一枚のクレジットカードを取り出した。
カードを取り出す時にチラッと見えたけれど、さすが次期社長だけあり、金色のカードが数枚差し込まれている。
私に手渡そうとしたのは、さすがにゴールドカードではなく一般カードだったけれど、キャッシングなどするとしたらきっと限度最大額まで引き出せるに違いない。
「カードって、本人以外が使っていいものじゃないですよ。それに、何かあった時が恐いから嫌です。食材を購入する際はレシートをお渡ししますから、その金額をスマホのアプリに送ってください」
私はそう言って、スマホのバーコード決済ができるアプリを示した。
神田さんは私の言葉に目を丸くして呆気にとられるが、ようやく納得してくれたようだ。
「……わかった、そうする。ホント、そういうところをきちんとしている楠野さんにお願いしてよかった――。それより呼び方なんだけど、恋人なのにお互い苗字ってのも変だから、下の名前で呼ぼうと思う。それから、連絡先教えて。さっきの電話番号だけでなく、通話アプリとかすぐに連絡のつくものがいいな」
私は取り出したスマホを操作して、普段よく使う通話アプリを開くとQRコードを表示させた。
「じゃあ、これでQRを読み取ってください。アカウント名はKAORUです。下の名前も、薫です」
「わかった。じゃあこれでともだち追加すればいいか。俺のは本名そのままで入れてるから」
彼のスマホのカメラが私の画面に表示されているQRコードを読み取り、メッセージが届く。
彼のアカウントをともだちに追加し、スタンプを押して返信する。画面に既読表示がされ、連絡先交換が完了したことを確認すると、私はバッグの中に、彼はスーツのポケットにスマホをしまった。
「それでは、改めて恋人役、よろしく頼むよ、薫」
突然の名前呼び、しかも呼び捨てで驚いたけれど、親密な演技をするためにはそれも必要だろう。
「えっと……、よろしくお願いします。――遼、さん」
「さん付けはいらない」
「いえっ、遼さんはきっと私より年が上ですから、呼び捨てになんてできません」
名前呼びでさえハードルが高いのに、ましてや呼び捨てにするなんてとんでもないことだ。
「え? 俺、32。てっきり同い年か少し下くらいかと思っていたんだけど……。女性に年齢を尋ねるのは失礼だと思うけど……って、今日は薫に失礼なことばかりしてるよな」
申し訳なさそうに言葉を口にする遼さんが何だか可愛らしく見える。
私は笑いを耐えながら年齢を伝えた。
「私は26歳です。よく年齢より老けてみられるので、お気になさらないでください」
幼少期、両親が離婚して母子家庭となった。母に私のことが負担にならないよう、勉強も頑張ったし、若いうちから家のこともひと通りできるようになったのは、このせいだ。
経済的に早く自立して、精神的にも早く大人になりたかった。
だから高校を卒業後は家を出て、奨学金を利用して大学に進学した。
ずっと私のために働き詰めだった母に心配をかけたくなくて、幼少の頃から周囲の空気を読めるようになったのだと思う。そして、感覚的な匂いに敏感になったのも、恐らくこの頃からだ。
そう言って、お財布の中から一枚のクレジットカードを取り出した。
カードを取り出す時にチラッと見えたけれど、さすが次期社長だけあり、金色のカードが数枚差し込まれている。
私に手渡そうとしたのは、さすがにゴールドカードではなく一般カードだったけれど、キャッシングなどするとしたらきっと限度最大額まで引き出せるに違いない。
「カードって、本人以外が使っていいものじゃないですよ。それに、何かあった時が恐いから嫌です。食材を購入する際はレシートをお渡ししますから、その金額をスマホのアプリに送ってください」
私はそう言って、スマホのバーコード決済ができるアプリを示した。
神田さんは私の言葉に目を丸くして呆気にとられるが、ようやく納得してくれたようだ。
「……わかった、そうする。ホント、そういうところをきちんとしている楠野さんにお願いしてよかった――。それより呼び方なんだけど、恋人なのにお互い苗字ってのも変だから、下の名前で呼ぼうと思う。それから、連絡先教えて。さっきの電話番号だけでなく、通話アプリとかすぐに連絡のつくものがいいな」
私は取り出したスマホを操作して、普段よく使う通話アプリを開くとQRコードを表示させた。
「じゃあ、これでQRを読み取ってください。アカウント名はKAORUです。下の名前も、薫です」
「わかった。じゃあこれでともだち追加すればいいか。俺のは本名そのままで入れてるから」
彼のスマホのカメラが私の画面に表示されているQRコードを読み取り、メッセージが届く。
彼のアカウントをともだちに追加し、スタンプを押して返信する。画面に既読表示がされ、連絡先交換が完了したことを確認すると、私はバッグの中に、彼はスーツのポケットにスマホをしまった。
「それでは、改めて恋人役、よろしく頼むよ、薫」
突然の名前呼び、しかも呼び捨てで驚いたけれど、親密な演技をするためにはそれも必要だろう。
「えっと……、よろしくお願いします。――遼、さん」
「さん付けはいらない」
「いえっ、遼さんはきっと私より年が上ですから、呼び捨てになんてできません」
名前呼びでさえハードルが高いのに、ましてや呼び捨てにするなんてとんでもないことだ。
「え? 俺、32。てっきり同い年か少し下くらいかと思っていたんだけど……。女性に年齢を尋ねるのは失礼だと思うけど……って、今日は薫に失礼なことばかりしてるよな」
申し訳なさそうに言葉を口にする遼さんが何だか可愛らしく見える。
私は笑いを耐えながら年齢を伝えた。
「私は26歳です。よく年齢より老けてみられるので、お気になさらないでください」
幼少期、両親が離婚して母子家庭となった。母に私のことが負担にならないよう、勉強も頑張ったし、若いうちから家のこともひと通りできるようになったのは、このせいだ。
経済的に早く自立して、精神的にも早く大人になりたかった。
だから高校を卒業後は家を出て、奨学金を利用して大学に進学した。
ずっと私のために働き詰めだった母に心配をかけたくなくて、幼少の頃から周囲の空気を読めるようになったのだと思う。そして、感覚的な匂いに敏感になったのも、恐らくこの頃からだ。