隣にいる理由〜選ばれるはずのなかった私が、あなたの妻になるまで〜
「え? そうだったんだ。そんなに若いと思わなかった……。けど、それだけ落ち着いているって、大人びている証拠だよ。きっとそれまでにたくさん苦労してきたんだろう?」

 老け顔のことを、そんなふうに言ってもらったのは初めてのことだ。
 私はどう反応していいかわからず、固まってしまう。
 そんな私に、遼さんは優しく声をかけてくれる。

「俺のせいで、これからたくさん迷惑を掛けるかもしれないけど、理不尽なことや嫌がらせみたいなことがあれば、遠慮なく言ってほしい。薫がひとりで抱え込むことではないから」

「はい、わかりました。これからよろしくお願いします」

 これでお互いの交渉が成立だ。
 遼さんの、疲労の匂いが少しでも改善されますように――
 願うのは、それだけだった。

 食事も終わり、デザートも食べ終え、時刻は20時半。ここに到着して約2時間。
 いったいここは何時まで滞在OKなんだろう……

 私の疑問が顔に出ていたのか、遼さんが口を開く。

「この店は最大22時まで大丈夫。ここ、庭も素敵なんだ。外に出てみる?」

「え、外に出てもいいんですか? ……でも、ここからの眺めも素敵です」
 
 間接照明に柔らかく照らされた庭は、手入れの行き届いたイングリッシュガーデンで、日に照らされた昼間なら、一段と心を癒やしてくれる場所に違いない。
 庭先に続く扉を開けると、夜風に乗って、バラの匂いが部屋に届く。
 私たちはしばらくの間、庭を眺めていた。
 
 
 翌日、私は仕事のためいつも通り出勤前に公園をウォーキングしていた。
 遼さんも今日は仕事が休みのはずなのに、ホテルの部屋で仕事をすると言っていた。遼さんも仕事の前にジョギングで思考を無にするのだと言っていたので、もしかしたら今日もここで会えるかもしれない。
 背中にリュックを背負って、私は黙々とウォーキングをする。
 すると、前方にジョギングをしている男性の姿が見えた。遠目でもわかるくらい、いつもの派手なレギンスを履いた遼さんだ。
 
 遼さんは視力がいいのか、遠目でも私の存在に気付いたようで、こちらに向かって手を振りながら駆け寄ってくる。
 徐々にその距離は縮まり、気が付けば遼さんの姿が目の前にあった。
 
「おはようございます」

「おはよう。時間、大丈夫?」

「はい、10分くらいなら」
 
 私はスマホで時間を確認し、念のため10分後にアラームをセットした。
 私の言葉を聞いて、遼さんはジョギングを中断し、公園のベンチへ向かって歩き始めた。私もその後に続いて歩く。
 彼はベンチに腰を下ろし、私に隣に座るよう促した。
 ベンチに座ると、公園内が見渡せる。私たち以外にも、ウォーキングやジョギングをしている人、犬の散歩をしている人、通勤ラッシュが少し落ち着いた時間帯だからそこまで人は多くないけれど、それでも公園を利用している人は多い。
 
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