隣にいる理由〜選ばれるはずのなかった私が、あなたの妻になるまで〜
 社会人になってから、意識して身体を動かさないといけないと痛感した。
 学生の頃は多少の暴飲暴食も翌日またはその次の日でリセットできていたけれど、社会人になってから基礎代謝が落ちたせいか、なかなか元に戻らない。

 身長160センチ、中肉中背より少しやせ型だったはずが、運動をしなかったせいで筋肉が落ち脂肪が付着する体型となりつつある。
 26歳という年齢を考えても、男性は見た目重視の人が多い。
 彼氏のいない私は、それなりに外見も磨かなければと焦りも感じている。
 
 就業時間の一時間前は、通勤ラッシュ前とあって散歩道も閑散としている。そんな街並みが人で溢れていく様子を歩きながら眺めるのは思いのほか楽しく、ウォーキングがいつしか日々の日課となった。
 天候や体調不良など、よほどの理由がない限り、ほぼ毎日仕事前に公園を歩いている。
 
 ——なのに。

 最近は、その習慣の中に、ひとつだけ例外がある。

 少し向こうから走ってくる、派手な柄のレギンスを履いた、若い男性がいる。
 この公園では目立つはずなのに、なぜか周りの風景に溶け込み、目障りでない。

 時々見かけるその人の姿を、気づけばそのレギンスの色を探すように、視線を上げてしまっている。
 雰囲気はものすごいイケメンオーラを放っているけれど、派手な色のレギンスが、彼をだれもそばに寄せ付けない。

 すれ違う時は、ほんの一瞬だ。
 彼の顔をきちんと見たことはないし、言葉を交わしたこともない。

 それでも分かってしまうのだ。

 すれ違う瞬間、清潔な匂いの奥に、無理を重ねた人特有の疲れ。
 きちんと整えられているのに、どこか危うい感じが伝わってくる。

 ——ああ、きっとこの人は、休むのが下手なんだな。

 私の直感が働くと同時に、胸の奥が理由もなくざわつく。
 心配している、なんて言葉で片づけるには、少しだけ熱を持ちすぎている。

 私は昔から、匂いに敏感だった。
 だから気づいてしまう。

 この人は、誰かに頼る前に、限界を越えてしまうタイプだと。

 彼が着用している派手なレギンスが目を惹いただけで、名前も知らない。
 どんな仕事をしているのかも分からない。
 ましてやじっくりと顔を見たわけでもない。

 それなのに、私はいつもの日課を理由に明日もまた、この時間にここへ来てしまうだろうと思う。

 派手なレギンスの向こう側に、理由の分からない感情を残したまま。

 それが、神田(かんだ)(りょう)という人だと知るのは、もう少し先の話。

 そして——
 その人の隣にいる理由を、私が探すことになるとも、このときはまだ知らなかった。
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