隣にいる理由〜選ばれるはずのなかった私が、あなたの妻になるまで〜

第五章 家柄と圧力

「ここで立ち話も何ですから、場所を移しませんか? 近くに素敵なカフェがあるんです」

 私は神宮寺さんに従い、一緒にカフェへと向かった。
 神宮寺さんが案内してくれたのは、サンクレアホテルとグレードも近いホテルのラウンジにあるカフェだった。

「夕食は遼さんとご一緒されるんでしょう? スイーツはやめておいた方がいいかもしれないわね」

 そう言って、私と一緒に見えるようにメニュー表を広げた。
 この人、何でそんなことを知ってるの……?
 彼女は私に対する意地悪な発言というニュアンスではなく、ただ、事実を淡々と口にする、そんな感じだった。

「ここのオリジナルブレンドがお勧めよ」

 メニューを見ながら、神宮寺さんが何を頼もうか迷っている私に声を掛けた。
 どうせ長居するつもりはないのなら、彼女のお勧めを飲んでみるのも悪くない。

「じゃあ、それを」

 私がそう言うと、神宮寺さんはうなずいてそばで控えていたフロアスタッフにオリジナルブレンドをふたつ注文した。

 フロアスタッフがテーブルから離れると、沈黙が続く。
 いったい私はこの人に何を言われるんだろう……
 緊張と不安で手汗をかいている。

 テーブルのそばにだれもいなくなったのを確認すると、神宮寺さんはおもむろに口を開く。

「改めまして、私は神宮寺浩子です。百貨店の神宮寺グループはご存じかしら?」

 彼女の言葉に、ハッと顔を上げた。
 神宮寺グループは、百貨店のトップで全国の主要都市に店舗を構えている。
 じゃあ、この人は――

「そう。私はその神宮寺グループの長女で、神田食品がはじめて百貨店へ進出した時にサポートした百貨店の創業者が、私の祖父です。神田家とは、古くからのお付き合いで、親たちは私たちを結婚させようと思っているみたい。――あなたは神田家のことをどのくらいご存じなの?」

 神田家――、遼さんの実家のことだ。
 そういえば、私は遼さんからは、親の決めた相手と結婚させられるということくらいしか聞いておらず、具体的なことについて何一つ聞いていない。
 名家の子息であり次期社長であること、ネットニュースで見た神田食品ホールディングスの経営状況、後継者であるゆえ、自分の意思で自由に動けないこと。
 私が知っているのは、せいぜいこのくらいだ。

 そのことを口にすると、神宮寺さんは表情を崩さずうなずくだけだ。
 表情からは、彼女が何を考えているかわからない。
 けれど、彼女からは私を傷つけようとする嫌悪感は感じられなかった。
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