隣にいる理由〜選ばれるはずのなかった私が、あなたの妻になるまで〜
 私の返事に、遼さんの行動は早かった。
 仕事をしていた書斎でパソコンを起動させ、区役所のホームページを開くと婚姻届をダウンロードし、印刷するとその場で必要事項を記入し始めた。

「俺のところは書いた。後は薫がこれに記入して、保証人欄にサインをもらえば即提出する」

「保証人って、だれにお願いするんですか……?」

 私は遼さんからペンを受け取ると、この場で書類にサインをした。

「本当ならお互いの両親にお願いするのが筋だと思うけど、うちの親には頼めない。薫のお母さんのご都合を聞いて、ご挨拶に伺ったときに、保証人のお願いをしようと思う。もうひとりは俺が信頼している人間にお願いするよ」

「わかりました。母に都合を聞いてみます」

 私はその場でスマホを起動させ、メッセージアプリから母へメッセージを入れた。
 この時間、休憩時間かまだ仕事をしているかわからない。
 メッセージを見たら折り返し連絡が欲しいと入力し、送信する。

 その後、母から連絡があったのは夕方のことだった。
 私は詳細を伏せて、結婚したい人がいるから会ってほしいとアポを取り、今度の休日二人そろって実家へ行くことになった。

 母は、私の結婚に喜んでくれ、保証人の欄にも快くサインをしてくれた。
 結婚式は、遼さんの仕事が落ち着いてから行う予定で、とりあえずは先に入籍をすることを伝え、納得してもらった。

 でも、そんな日が来ることはない。
 母に嘘を吐くのは心苦しかったけれど、好きな人の隣にいられることと天秤にかけたら、自分のエゴに従うことを選んだ。

 もう一人の保証人は、遼さんの大学時代の友人で、大手企業にお勤めの方とのことだった。
 保証人欄に記入をお願いするのだから、ひと言ご挨拶をしたいと伝えたが、お互い仕事の都合がつかないとのことで顔を合わせることはなかった。
 
 こうして私たちは、形式上、夫婦となった。

 結婚したのだから、ホテルに引っ越しておいでと言われたけれど、私はその誘いを断った。
 いつまでこの関係が続くかわからない。
 それならこのまま私がホテルに通うのでいいのではないかと提案した。
 すると、遼さんは何を思ったのか、私の部屋へ引っ越すと言い出した。

 私が住むアパートは、部屋数も少ないし、セキュリティ対策も甘いし、そして何より遼さんみたいな富裕層の人が住むようなところではない。
 しかし、このままだと私たちが結婚したと言っても、誰も信じてくれないだろう。

 しばらく考えた遼さんは、レジデンス棟のマンションに引っ越すと言い出した。
 ホテルの部屋と同じとまではいかないけれど、寝室を分けることは可能だとの言葉に、私も妥協して同居を受け入れた。
 
 
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