隣にいる理由〜選ばれるはずのなかった私が、あなたの妻になるまで〜
「成り行きで結婚しましたが、私はあなたの妻なんです。妻が夫の身体を心配しないで、だれが心配するんですか? 先代の経営責任を取る遼さんは立派です。でも、それで身体を壊したら元も子もないんです。もっと自分を大事にしてください」
私の言葉が届いたのか、遼さんは自分の胸の内をぽつりぽつりと明かしてくれた。
「祖父の代から続く、この会社の伝統を壊したくない。――でも、父が社長になってから、会社の経営はずっと赤字決算のままだ。世界情勢、日本の経済悪化、いろんな要因が全て悪い方で重なってしまって、正直もう俺の手には負えない。でも、従業員たちや会社の未来も捨てられない。……そして、今は君を失うのが一番怖い」
隣に座る遼さんから、これまで感じたことのない恐怖の匂いがした。
この人の言葉に嘘はない。今口にしたこと全てを恐れている。
こんな匂い、初めてだ。
彼を支えたい。
何をどう伝えたらいいかわからない。けれど、このまま契約妻で終わりたくない。
私は自分の中で言葉を整理しながらそっと口を開いた。
「私が遼さんの隣にいる理由を、『役目』じゃなくて――遼さんの意思にしてください。あなたは自分の意思で結婚相手に私を選んだ。私は会社の経営について何もできないけれど、家庭で支えることはできる。――ううん、妻として、遼さんを支えたい。契約なんてやめて、本当の奥さんになりたい」
私の声に、遼さんは私が重ねていた手をギュッと握った。
その手は先ほどと違って、温かい血が通っている。彼の熱が、私の手に伝わってくる。
「薫とこうして過ごすようになって、ずっとこのまま一緒にいられたらいいと思ってた。だから、本当に嬉しい。――薫が俺の隣にいてくれたら、俺はこれからも頑張れそうだ」
いつの間にか彼からは恐怖の匂いが消え、安心の匂いがした。
私は繋いでいる手を見つめ、ようやくこれで本当の夫婦になれた気がした。
それから数日後、今日は重役会議の日だ。
遼さんは、自分の気持ちを役員に伝えると私に告げた。
「もしかしたら、俺は親父の時のようにまた保守派から社長の座を追いやられるかもしれない。けど、薫、君は俺の人生で唯一、自分で選んだ存在だ。だから――」
私は遼さんの言葉を最後まで聞かず、彼に抱きついた。
「大丈夫、どんな遼さんでも、遼さんは遼さんだから。もし路頭に迷ったら、私があなたを養うから」
私の言葉が届いたのか、遼さんは自分の胸の内をぽつりぽつりと明かしてくれた。
「祖父の代から続く、この会社の伝統を壊したくない。――でも、父が社長になってから、会社の経営はずっと赤字決算のままだ。世界情勢、日本の経済悪化、いろんな要因が全て悪い方で重なってしまって、正直もう俺の手には負えない。でも、従業員たちや会社の未来も捨てられない。……そして、今は君を失うのが一番怖い」
隣に座る遼さんから、これまで感じたことのない恐怖の匂いがした。
この人の言葉に嘘はない。今口にしたこと全てを恐れている。
こんな匂い、初めてだ。
彼を支えたい。
何をどう伝えたらいいかわからない。けれど、このまま契約妻で終わりたくない。
私は自分の中で言葉を整理しながらそっと口を開いた。
「私が遼さんの隣にいる理由を、『役目』じゃなくて――遼さんの意思にしてください。あなたは自分の意思で結婚相手に私を選んだ。私は会社の経営について何もできないけれど、家庭で支えることはできる。――ううん、妻として、遼さんを支えたい。契約なんてやめて、本当の奥さんになりたい」
私の声に、遼さんは私が重ねていた手をギュッと握った。
その手は先ほどと違って、温かい血が通っている。彼の熱が、私の手に伝わってくる。
「薫とこうして過ごすようになって、ずっとこのまま一緒にいられたらいいと思ってた。だから、本当に嬉しい。――薫が俺の隣にいてくれたら、俺はこれからも頑張れそうだ」
いつの間にか彼からは恐怖の匂いが消え、安心の匂いがした。
私は繋いでいる手を見つめ、ようやくこれで本当の夫婦になれた気がした。
それから数日後、今日は重役会議の日だ。
遼さんは、自分の気持ちを役員に伝えると私に告げた。
「もしかしたら、俺は親父の時のようにまた保守派から社長の座を追いやられるかもしれない。けど、薫、君は俺の人生で唯一、自分で選んだ存在だ。だから――」
私は遼さんの言葉を最後まで聞かず、彼に抱きついた。
「大丈夫、どんな遼さんでも、遼さんは遼さんだから。もし路頭に迷ったら、私があなたを養うから」