恋に臆病な私と恋を知らなかった御曹司の距離が、ゼロになるまで
「教えてくれて、ありがとう」

 充輝はそう言って柔らかな笑みを浮かべた。

 それは同情でも慰めでもなく、来海が嘘偽りなく話してくれたことへのまっすぐな感謝だった。

「今話してくれたことでさ……俺が誘ったときに、どうしてあんなふうに言われたのか、ようやく分かって安心した」

 その言葉に来海ははっとしたように顔を上げると躊躇いがちに言葉を紡ぐ。

「……怒らないの? 私、羽柴くんのこと……あんな最低な人と同じに見ていたのに……」

 来海の言葉に充輝は首を横に振った。

「怒らないよ。だって、そう思われても仕方ないことをしてたからさ」

 自嘲気味に笑いながら視線を逸らし、そして再び来海を見る。

「軽く見えたんだよね? 俺。だから向坂さんからしたらアイツと重なって見えても無理ないと思うし」

 その言葉に来海の胸がきゅっと締めつけられた。

「たださ、急に信じてほしいなんて言わないけど――」

 言いながら来海の目を真っ直ぐに捉えた充輝は、

「俺はアイツみたいに向坂さんを傷つけるようなことをするつもりは絶対にない。それだけは断言できる。だからさ……少しずつでいいから俺のこと、知ってもらえたら嬉しい」

 自分の気持ちを精一杯伝えると、その真剣な眼差しに来海は息を呑んだ。

 一度傷ついた心は簡単には元に戻らない。

 人を信じることも怖いまま。

 それでも——

(信じたい……羽柴くんのこと……)

 泰斗(元カレ)とは違うと分かっているからこそ、充輝を信じたいと思った来海は、

「羽柴くんを、信じたい……です。それと……今まで酷いことを言ってごめんなさい。あなたは何も悪くないのに、疑って、突き放して……本当にごめんなさい」

 信じたい思いと、これまで取った態度や発言した数々の言葉についての謝罪を口にした。

「もう謝らなくていいって。気にしてないし。そんなことよりも、向坂さんが俺を信じたいって思ってくれたことが何よりも嬉しいよ、ありがとう」

 充輝はこれまで来海に言われた言葉や態度よりも、自分を信じようと思ってくれたことが何よりも嬉しく、それだけで全てが報われたと思った。

「向坂さんのペースでいいから、これから少しずつ……話が出来たら嬉しいな」
「ありがとう……少しずつ、話したいです」

 こうして二人の距離は少し近付いていくことになった。
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