恋に臆病な私と恋を知らなかった御曹司の距離が、ゼロになるまで
「うん、全く。そもそも相手は社長の息子でしょ? そんな御曹司様に興味持ったって意味ないと思うし、女を取っかえ引っ変えで不誠実な男に深入りしたところで、ろくなことないから」

 それは、一切の迷いが無い言葉だった。

 同僚たちは一瞬言葉を失い、やがて苦笑混じりの表情を浮かべていく。

「あはは、来海の男嫌いは相当ね」
「元カレと色々あって、男は嫌になったんだっけ?」
「まあね」

 来海は短く答えると話を切り上げるように時計を示した。

「ほら、もうすぐ昼休み終わるよ。二人とも早く食べないと」
「うわ、本当だ!」
「メイク直ししなきゃ!」

 時間を見せられ慌てて弁当を片付け始める同僚たちを横目に、来海は内心でほっと息をついた。

 彼女は普段ほとんど化粧をせず、服装も地味でシンプルなものを好む。

 長く艶のある黒髪ロングヘアを色気の無い黒いゴムで後ろに束ね、着ているのは白のカッターシャツでタイトな黒いスカート姿。

折角制服も無くて特に規制の無い条件下にあるにも関わらず、来海は他の女性社員たちのように着飾ることもせず、性格も控えめで仲の良い相手以外とは必要以上に距離を詰めたりもしない。

周りからすると、地味で冷めた女という印象に映るだろう。

 けれど、それには理由があった。

 学生時代、異性を巡るトラブルに巻き込まれて陰湿ないじめを受けた経験と、大学時代、初めて心を許した恋人に裏切られたことが重なり、彼女は自然と「目立たないこと」を選ぶようになったのだ。

 異性に期待しない、深入りしない、感情を向けない。

 特に、充輝のような「女性関係にだらしの無い人間」は来海にとって一番無縁かつ、関わり合いになりたく無い部類だった。

(羽柴 充輝……女好きで軽い男……そんなの、何が良いんだか……)

 そう思いながら、来海は一足先に仕事に戻って行った。

 関わることなんて有り得無い。

 そう思っていた来海だが、この時既に運命の歯車は密かに動き出していた。
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