旦那様、そろそろ離縁のご準備を〜契約結婚三年目、満了日を目前にして旦那様の様子がどこか変です〜
レイモンドの脳裏に過ぎる、一昨日の夜の出来事。
ソフィアとイシュの関係が、気になって仕方ない。
(……今頃、彼女は何をしているだろうか)
ソフィアが無事目覚めたことは、屋敷の使用人が放った鷹便で把握していた。
だがその後のことまではわからない。
使用人には、問題が起きたら追って知らせろと命じてある。つまり何も連絡がないということは、特段問題はないということ。
だが自分がこうしている間にも、あの二人が逢瀬を重ねている可能性は捨てきれない。
そんな考えばかりが浮かび、レイモンドの心を苦しめていた。
(やはり、この任務は断るべきだった)
レイモンドが鋭く目を細めたところで、隣のエミリオがわざとらしく息を吐く。
「……お前さ、昨日からずっと機嫌悪いよな。今度は何があったんだ? 夫人と」
毎度のことながら言い当てられ、レイモンドはぴくりと眉を震わせた。
「俺はそんなにわかりやすいか?」
「ああ、わかりやすいね。ま、俺は嬉しいけどな。夫人と出会う前のお前は、人生諦めたような顔してたから。今の方がずっと人間らしくて、俺は好きだよ」
「――何だと?」
思わず声が低くなる。だがエミリオは気にも留めず、レイモンドを横目で流し見た。
「で? 結局何があったんだよ。ファーストダンスはいい雰囲気だったのに、結局あの後、お前も夫人も戻ってこなかったろ。俺、気になってたんだよね」
「…………」
いつになく真剣な声で問われ、レイモンドは沈黙した。
あの夜のことを他人に話していいものか。これを話すということは、自分の醜い嫉妬心を曝け出すことになる。
だが、最初にソフィアとヴァーレン商会の関係について助言をくれたのはエミリオだ。
つまり、エミリオには現況報告をする義務があるのではないか。
悩んだ末、レイモンドは口を開く。
「実はあの夜、王宮の庭園で――」
夏の海風が吹き抜ける甲板の上で、レイモンドは地平線の彼方を見やり――今の苦しい胸の内を吐き出した。