旦那様、そろそろ離縁のご準備を〜契約結婚三年目、満了日を目前にして旦那様の様子がどこか変です〜


 三年ぶりに店の扉をくぐると、すぐに店主の男性が現れ、恭しく頭を下げて奥へと案内してくれた。
 通されたのは、かつて幾度となく利用した商談用の応接間だった。

 中央のテーブルを挟み、三人掛けのソファが二つ。
 その一方の真ん中に、すでにイシュが腰掛けていた。
 背筋を伸ばし、落ち着いた微笑みを浮かべているが、その眼差しにはどこか(かげ)りがある。

 店主が退室すると、部屋には三人だけが残された。
 ソフィアは胸にざわめきを覚えながら、反対側のソファに腰を下ろし、イシュと向き合う。

「……イシュ、今日はいったいどんな――」
「一昨日の夜は、無事に帰れた?」

 刹那、ソフィアの言葉を遮るように、イシュが口を開いた。
 唇は微笑んでいる。けれど、目は笑っていないように見えた。それに、いつもよりも微妙に声色が硬い。

「……どうして、そんなこと」
「閣下から、何か言われなかった?」

 答えるよりも早く、質問が重なる。
 ――間違いない。今日のイシュは何かが変だ。それに……。

「イシュ。あなた、旦那様と話したの?」

 今のイシュの質問は、レイモンドと何か問題が起きたことを示唆していた。
 そうでなければ「何か言われなかったか」などと聞くはずがない。
 けれど、イシュはまともに答えなかった。

「その様子だと、閣下は君に何も話していないみたいだ。……とするなら、僕の口からは言えないな」
「何よそれ、いったいどういうこと? 話を振ったのはあなたの方じゃない。それに、こんな風に呼び出すなんてあなたらしくないわ。この前急に会いにきたのもそうだけど……三年前の約束を忘れたわけじゃないでしょう?」
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