旦那様、そろそろ離縁のご準備を〜契約結婚三年目、満了日を目前にして旦那様の様子がどこか変です〜
三年前、二人は極力会わないと取り決めた。
お互いの関係を秘匿するため。そしてまた、ソフィアがイシュの手を借りて帝国に移住することを隠すために、やり取りはアリスを介しての手紙に留めようと決めたのだ。
それなのに、先日のアポなし訪問に始まり、今日に至っては強引な呼び出し。
ソフィアの知るイシュならば、決して取り得ない方法ばかりだ。
「ねえ、イシュ。何があったの? わざわざこの国に来たのは、仕事が理由なだけじゃないわよね? こんな風に呼び出したんだもの……こちらが本題ではないの?」
「…………」
はっきりとした声で問うと、イシュはかすかに目を細めた。
その瞳には、ソフィアでなければ気づけないほどの、小さな葛藤が揺れている。
イシュは諦めたように息を吐いた。
「……君に隠し事はできないみたいだ。――そうだよ、君の言うとおり。僕は君に会いにきたんだ。この先のことついて、どうしても伝えないといけないことがあったから」
いつにも増して真剣なイシュの声。
しかも内容は「この先のこと」について。
ソフィアはごくりと息を呑む。
「実は僕、来月から二年間、祖国に戻らなきゃいけなくなってね。父からの命令で、帝国を離れないといけないんだ。だから――君を、帝国には連れていけない」
「…………え?」
刹那、ソフィアは目を見開いた。
あまりにも予想外の内容だったからだ。
そもそも、数日前にイシュが屋敷を訪れたとき、そんなことは一言も言わなかった。それが今になって急にそんな話をするなんて、おかしいではないか。
「ちょっと待ってイシュ。だってあなた、この前はそんなこと……。それに、わたしはあなたがいなくたって平気よ? 帝国語も話せるし、アリスも一緒だもの。そもそも、あちらに行った後のことまであなたを頼るつもりは――」