旦那様、そろそろ離縁のご準備を〜契約結婚三年目、満了日を目前にして旦那様の様子がどこか変です〜
――四日前、舞踏会の庭園で。
月明かりの下、イシュ・ヴァーレンは臆することなく言い放った。
「どうか今すぐ、彼女と離縁していただけませんか」
その声音は確固たる意志を帯びていた。
あの一言で、レイモンドは悟ったのだ。ソフィアとイシュは、ただの知人ではないと。
そのことを、レイモンドはエミリオに打ち明けた。
二日前、海風が吹き抜ける甲板で、ソフィアがイシュの膝に頭を預けていたこと、そして「離縁しろ」と迫られたことを。
するとエミリオはしばし黙り込み、やがて真剣な眼差しで言った。
「……実は俺も聞いちゃったんだよ。舞踏会の夜、イシュ・ヴァーレン卿が帝国を離れて祖国に戻るって。それってさ、つまり……」
「!」
その言葉の意味がわからないほど、レイモンドは鈍くなかった。
イシュが祖国に戻る。そこに舞踏会の夜のイシュの言葉を重ねると、答えは一つ。――イシュは、ソフィアを祖国イシュラに連れて行くつもりなのだ。
しかも、そんなレイモンドに追い打ちをかけるように、昨日、首都の屋敷から鷹便が届いた。
その報告書に書かれていたのは〝ソフィアが仕立て屋でイシュと会っていた〟という信じられないものだった。
(やはり……俺の知らないところで、二人はずっと繋がっていた)
疑念は確信に変わり、胸の奥で嫉妬と不安が膨れ上がる。
(ソフィアは本当に来てくれるのか? いや、律儀な彼女のことだ。契約を投げ出すような真似はしないだろう。だが……もしかしたら、既に彼女は……)
信じたい気持ちと疑念が交互に押し寄せ、理性を削り取っていく。
(……駄目だ。考えれば考えるほど、焦りばかりが募る)
ペンを握る手に力が入り、インクが紙に滲んだ。報告書の清書は終わらず、調書の整合性も取れていない。押収品の最終確認も残っている。
だが頭にあるのはソフィアのことだけだった。一刻も早く仕事を片づけ、ヴェルセリアへ向かわねば――その焦燥だけが彼を突き動かしていた。
そんなときだ。