旦那様、そろそろ離縁のご準備を〜契約結婚三年目、満了日を目前にして旦那様の様子がどこか変です〜
(とても冗談には見えなかったけれど)
とはいえ、馬車の中でのレイモンドはいつもと変わらず穏やかで、何事もなかったかのように振る舞っていた。
だからこそ、余計に不可解だった。
(それに、"わたしが浮かない顔をしていた"って……。確かに、舞踏会に気が乗らないのは本当だったけど、顔に出したつもりはないのに……)
そんな思考を抱えたまま、ソフィアはレイモンドと共に、顔見知りの貴族たちと挨拶を交わしていく。
やがて、楽団が荘厳なファンファーレを奏で始めた。
ざわめきがすっと静まり、視線が一斉に大広間の奥――玉座のある高壇へと向かう。
国王と王妃、王子や王女たちが入場し、定められた椅子に腰かけた。
王族が揃うと、司会役の侍従が一歩前に進み、朗々とした声を響かせる。
「これより、今宵の舞踏会を開宴いたします。まずは、我らが国王陛下と王妃陛下による――」
その言葉に合わせ、楽団が曲調を変え、ゆるやかなワルツの前奏が流れ出す。
国王と王妃が中央へ進み、互いに一礼して踊り始めた。
その優雅な動きに、会場の空気が一層引き締まる。
やがて曲が終わり、王子や王女たちが順に踊り終えると、高位貴族の番が回ってきた。
その中には当然、ウィンダム家も含まれている。
「我々の番だな。行こう」
レイモンドが低く告げ、ソフィアの手を取る。
その手は温かく、力強い。
「はい、旦那様」
ソフィアは微笑み、周りの視線を集めながら、ダンスフロアの中央へと進んでいった。