旦那様、そろそろ離縁のご準備を〜契約結婚三年目、満了日を目前にして旦那様の様子がどこか変です〜
それから少し後、王宮の広間の外に続く外回廊を歩きながら、ソフィアはひとり溜め息をついた。
「……はぁ。わたしったら、本当に何をしているのかしら」
片側は石壁、もう片側は庭園が広がり、灯りはあるが薄暗い回廊。庭園から吹く夜風が気持ちいい。
けれど、ソフィアの心は沈んでいた。
「舞踏会はまだ始まったばかり……逃げたって仕方がないのに」
母のことは嫌いではない。少し押しつけがましいところはあるが、愛情を持って育ててくれた。
レイモンドと結婚する前、何年もフラフラしていた自分を――お見合いこそ数え切れないほどセッティングされたが――無理やり結婚させようとだけはしなかった。
それについては感謝しているし、レイモンドを紹介したときは涙を流して喜んでくれた。
そんな母が、娘夫婦に子どもができないことを、自分のことのように悩むのは当然だろう。それは、母が娘を想う愛故だ。
それなのに、どうして自分は白状にも、このように母に背を向けてしまうのか――自己嫌悪が胸を締めつけた。
「やっぱり、戻らなきゃ」
ソフィアは踵を返し、会場の方へ戻ろうとする。
けれどそのとき、ひとつの足音が聞こえ、ソフィアは足を止めた。
(誰かしら、こんなところに。……わたし以外にも、人が?)
数秒遅れて、暗がりから現れた人物の顔が、ぼんやりと灯りに照らされる。
そこにいたのは、六つ歳の離れた実の長兄・フェリクスだった。
ソフィアは無意識に息を呑む。
「ソフィア、ここにいたのか。母上がお前を探していたよ」
「……お兄様」