旦那様、そろそろ離縁のご準備を〜契約結婚三年目、満了日を目前にして旦那様の様子がどこか変です〜
一方そのころ、レイモンドは大広間にてソフィアを探していた。
煌びやかなシャンデリアの下、音楽と笑い声が渦巻く中で、人々の間を縫うように歩いていた。
(こんなことは初めてだ)
レイモンドはこの三年間、幾度となくソフィアと舞踏会に参加してきた。当然、別行動をすることも少なくなかった。
けれどそういったとき、ソフィアは必ず、どの夫人と話をするか、どこのテーブルにいるかなどを、給仕を通すなりして必ずレイモンドに知らせるようにしていた。
今の様に、言伝なしにいなくなることは一度たりとなかった。
それなのに、誰に尋ねても知らないという。
(彼女は、いったいどこに)
胸の奥に小さな不安が芽生え、レイモンドは視線を鋭く巡らせる。
そのとき、ホールの出入り口から入ってくる男の姿が目に入った。
(フェリクス・ハリントン卿? 姿を見るのは式以来だな。いつ戻ったんだ?)
ソフィアの長兄・フェリクスとは、ソフィアとの結婚式で顔を合わせたのが最初で最後になる。
外交官であるフェリクスは、ほとんど国に帰ってくることはないからだ。
何となく気になったレイモンドは、すぐに歩み寄り、声をかけた。
「フェリクス殿。お久しぶりです」
すると振り返ったフェリクスは、レイモンドの姿を見るなり、ほんの一瞬目を細める。
「ウィンダム侯。久しぶりだな」
「ええ、お会いするのは式以来でしょうか。お元気そうで何よりです。ところで、ソフィアを見かけませんでしたか? 突然姿が見えなくなりまして」
本来なら、いつ頃戻ったのだとか、仕事は順調かなどの会話をすべきところだが、レイモンドは一足飛びで用件を伝える。
その途端、フェリクスは表情を固くした。視線こそ逸らさないが、言葉を探すように口を開く。
「妹なら、先ほどまで一緒だった。少し風に当たると……庭園の方へ」
曖昧に笑みを浮かべるが、その目は笑っていない。
その態度に、レイモンドはわずかに違和感を覚えた。
(……何だ?)
どうにも様子がおかしい。
だが、今は問い詰めている暇はない。
レイモンドは短く礼を述べ、庭園へと向かった。