旦那様、そろそろ離縁のご準備を〜契約結婚三年目、満了日を目前にして旦那様の様子がどこか変です〜

 四日前、イシュ・ヴァーレンについて調査を執事に命じ、昨夜受け取った報告書。

 そこには、イシュ・ヴァーレンの生い立ちや現況、七年前に初めてこの地を訪れていたことなどが書かれていた。
 当時、まだこの国でのヴァーレン商会の立ち位置はそれほど強くなかったが、イシュの手腕により、たった二年で商会の地位を確立させたと。
 その後、西大陸全土に独自の流通網を築き、帝国支部へ移ったこと。

 その報告書の中には、ソフィアの名はどこにもなかった。
 当然だ。レイモンドは、ヴァーレン商会とイシュについて調べるよう命じただけで、イシュとソフィアの関係を調べろとは一言も言っていないのだから。

 だがそれでも、二人の関係に疑いを持つには十分だった。

 イシュは二年もの間この国に滞在していた――特に、当時の商会の客の多くは貴族だった。となれば、ソフィアの実家と交流があっても不思議ではない。

 さらに、服飾ブランド『サーラ・レーヴ』についての調査がほとんど空振りに終わったことも疑念を深める理由となった。

 某ブランドについてわかったことは、設立年月日くらいなもの。
 経営者も出資者も不明。唯一わかったことといえば、イシュが代理で代表を務めているという事実だけ。
 ウィンダム侯爵家の情報網をもってしても掴めない――それを異常と言わずして、何と言うのか。

 そんなブランドを、ソフィアはどのような伝手(つて)で知り、社交界に広めるに至ったのか。

 イシュがブランドの代表を務めているということを考えれば、おのずと答えは導き出される。
 ソフィアは他でもない、イシュのため(・・・・・・)にブランドを広めたのだと。

 ――実際は、ソフィアは自身のためにブランドを広めたのだが、サーラ・レーヴがソフィアのものであることを知らないレイモンドは、そのように結論づけた。

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