旦那様、そろそろ離縁のご準備を〜契約結婚三年目、満了日を目前にして旦那様の様子がどこか変です〜
(やはり、俺の勘は正しかった。この男とソフィアの関係は――)
目の前で、イシュに膝枕されたまま、規則正しい寝息を立てるソフィア。
この状況やイシュの発言から、二人の関係性は明らかだ。――否、もしそうでなかったとしても、少なくとも二人は『契約結婚』の秘密を共有する仲であり、しかもイシュはソフィアに並々ならぬ感情を抱いている。
それだけは確実だった。
だが、だからといって今すぐ離縁などという提案を受け入れられるはずがない。
「ふざけるな……!」
レイモンドは怒りを露わにし、ソフィアを奪うように抱き上げる。
その腕は怒りに震えていたが、彼女を抱く手つきは驚くほど丁寧だった。
「お前がソフィアとどのような関係かは知らないが、これは俺たちの契約だ。お前に口を出す権利はない」
威圧する声に、けれどイシュは少しもひるまない。
「つまり、ぎりぎりまで離縁するつもりはないと……そう仰るのですね?」
「愚問だな」
挑戦的に自分を見上げる眼差しに、殺意にも近い感情が沸き上がる。
もしソフィアを抱えていなければ、迷わず殴り飛ばしていただろう。
だが今、腕の中にはソフィアがいる。
(ソフィアに、血を見せるわけにはいかない)
必死に自制して、レイモンドはイシュに背を向ける。
「これ以上話しても時間の無駄だ」
ソフィアを腕に抱き締め、その場を去ろうとした。
けれどその背を、イシュの声が引き止める。
「僕はフィアのために言っているんです。――私情ではなく」
ピタリと、レイモンドの足が止まった。
「……フィア、だと?」