旦那様、そろそろ離縁のご準備を〜契約結婚三年目、満了日を目前にして旦那様の様子がどこか変です〜
イシュの口から飛び出た聞き慣れぬソフィアの愛称に、今度こそレイモンドの全身から殺気が迸る。
――どの口が、と、そう思った。
ゆるりと振り返ったレイモンドの眼差しは鋭く、夜気を震わせる。
「俺が帯剣していなくて幸運だったな。そうでなければ、お前は二度と人前に出られない姿になっていただろう」
「……なるほど。いかにも軍人らしい野蛮な脅しですね。だとしても僕は――」
「構わない、だったか? 大層な愛だな。ならば俺からもひとつ言わせてもらう。貴様、国に妻子があるだろう。それも二人も。一夫多妻だか何だか知らないが、そのような身の上でよくも彼女を求められるものだ。恥を知れ」
「!」
すると、これには流石のイシュも驚いた様子を見せた。
瞼を細めて押し黙るイシュに、レイモンドは冷えた視線を投げかける。
「何を驚くことがある。お前はとうに気付いていたはずだ。俺がお前を探っていることを。だからこんな形で俺を挑発することにした――違うか?」
「…………」
「お前が大商会の跡取りであろうと、俺にとっては何の関係もない。今後もこの国で商売を続けたくば、俺を敵には回さぬことだ」
レイモンドはそう言い捨てると、それ以上何も言おうとしないイシュを置き去りに、今度こそ庭園を後にした。