旦那様、そろそろ離縁のご準備を〜契約結婚三年目、満了日を目前にして旦那様の様子がどこか変です〜

 この三年間、ソフィアはずっと隣にいてくれた。

 期限付きの関係であるにも関わらず、自分の体調を気遣い、人間関係を円滑に進め、屋敷や使用人たちの管理やフォローも忘れない。
 軍人を夫に持つ妻たちは、夫が任地に赴任している間、首都や領地の屋敷に愛人を好き勝手連れ込みドレスや宝石に散財する――そんなことも珍しくない中で、ソフィアは全てにおいて清廉潔白だった。

 何気ない毎日の挨拶や、自分に見せる笑顔、優しい声。

 そんな彼女の誠実さと律義さに惹かれ、いつしかあの微笑みが愛情であると愚かにも誤解した。それが全て契約上のものであったとわかったとき、当然のごとくショックを受けたが、それでも構わないと思った。

 彼女の言動全てが演技であろうと、そうと気付かせなかった三年間の彼女の姿は、自分にとっては紛れもなく「本物」だったのだから。

 けれど、もしそれが、あの男のためだったとしたら――。


「……っ」

 嫉妬の渦に呑まれそうになる。今すぐにでも引き返し、イシュの息の根を止めたくなる。
 自分こそが邪魔者だと理解していても、この気持ちを抑えることができない。

(ソフィア、すまない。俺は、君をあの男にだけは渡したくない)

 契約結婚の期日は、残りひと月。その日がくれば、ソフィアを手放さなければならない。
 その覚悟は決めていた。ソフィアを無理やり引き留めることは本意ではないのだから。

 ――しかし。

(別れるだけならいい。だが、妻子ある男の元へ嫁ぐなど、許せるものか)

 腕の中のソフィアを、無意識に強く抱き寄せる。
 彼女は小さく身じろぎしたが、目を覚ますことはなかった。その寝息が、焦燥感を煽っていく。

(とはいえ、彼女の意思を無視することなど……)


 答えは出ない。ただ、焦りが広がるばかり。

 けれど同時に、驚くほど冷静にイシュの言動を分析している自身がいた。それは彼が軍人として生きてきたが故の二面性だった。

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