旦那様、そろそろ離縁のご準備を〜契約結婚三年目、満了日を目前にして旦那様の様子がどこか変です〜
だが、アリスはその嘘を信じたようだ。あるいはイシュの名前に気を取られたのか、「イシュ様とお会いになったのですか?」と怪訝そうに眉をひそめ、記憶を探るように視線を動かす。
「アリス。旦那様は、他に何か言っていなかった? 主にイシュのこととか」
「うーん。特にイシュ様のお名前は出ませんでしたけど……でも確かに言われてみれば、どこか殺気立ったような感じはありましたね。奥様のことを心配しつつも、他に心配事があるみたいな……」
その言葉に、ソフィアの胸はざわついた。
「やっぱり、旦那様はイシュと会ったんじゃないかしら。だとしたら……」
「イシュ様が、帝国行きのことを旦那様に話したんじゃないかと心配しているのですか?」
「いいえ、それはないと思う。でも、旦那様がわたしとイシュの関係に気がついた可能性がないとは、言い切れないじゃない」
イシュとは守秘義務契約を交わしている。ソフィアの帝国行きや、服飾ブランド『サーラ・レーヴ』について、互いに他言しないようにと。この契約がある限り、イシュがソフィアの今後のことやブランドについて、第三者に話すことはないだろう。
けれど、自分たちの関係がただの商売人と顧客の関係でないことは、少し調べればわかることだ。かねてより、人目のある場所では会わないようにしていたが、個室を貸してくれていた店の店主や、当時の親しい使用人たちは、ソフィアとイシュが友人以上の間柄であったことを知っている。
「わたし、旦那様に会ってくるわ。イシュのことを抜きにしたって、昨夜のことを謝らないと」
そう言ってベッドから降りようとしたソフィアを、アリスは引き留める。
「待ってください。旦那様はもういらっしゃいませんよ。今朝早く、任地にお立ちになりましたから」
「え? でも、出発は三日後の予定じゃ」