愚かな婚約者様、あなたの"浮気相手"は私の味方ですよ? 〜手を組んだ2人の才女による華麗なる制裁〜

11、竜族の男

 カトリーヌは、まだ目の前で起きたことを信じきれていない。

(まさか、竜族の方に助けていただけるなんて。魔法をこの目で見ることができるなんて)

 あまりにもあり得ないことが起きていた。
 男はカトリーヌに頭を下げられ、少し困ったように眉を下げながらまた口を開く。

「そんなに頭を下げなくてもいい。俺は当然のことをしただけだ。それよりも怪我の有無を確認してくれ。極限状態だと痛みを感じないことがある」

 促される形で怪我の有無を確認したカトリーヌは、問題ないと伝えようとしたところで、ラースのことを思い出した。ラースは腕に傷を負っていたのだ。

 カトリーヌがラースに視線を向けると、男もその怪我に気付いたらしい。

「腕を見せてみろ」

 近くに行きそう告げた男に、ラースは首を横に振った。

「い、いえ、これぐらい問題ありませんので」

 竜族だろう相手に、ラースは恐縮している。

 しかし男はラースの腕を掴むと、柔らかい光で患部を満たした。

「……これで、問題はない」

 ラースの腕の傷は完璧に治っていた。

(凄い、こんな魔法もあるなんて……)

 まさに奇跡だとカトリーヌは興奮する。

 しかし怪我を治したことが原因か、竜族の男は息が荒く辛そうになった。

「だ、大丈夫ですか⁉︎」

 カトリーヌは思わず男に駆け寄る。

 自分たちを助けたことで何か問題が発生したのではないかと、カトリーヌは泣きそうになった。しかしそんなカトリーヌに、男は辛そうにしながらも笑みを向ける。

「ただ、魔力が減っただけだ。心配いらない。俺は竜族のくせに、高出力の魔法が苦手で、どうしてもすぐに魔力が尽きるんだ。幻滅させてしまったら、すまない」

 申し訳なさそうに告げた男に、カトリーヌはブンブンと首を横に振る。

「そんなこと思うはずもありません! ご自分の辛さも顧みず、わたしたちを助けてくださり本当にありがとうございました。知り合いでもないわたしたちを助け、怪我の心配までしてくださるそのお心に、心から尊敬いたします。幻滅するなどあり得ません」

 カトリーヌの言葉に男は少し目を見開くと、口元を緩めた。

「ありがとう。俺はエルベルトだ。君は?」
「ご挨拶が遅れて申し訳ございません。カトリーヌ・コルディエと申します。魔道具の素材を求めてこちらへ来たところ、運悪くメタルベアの親子に遭遇してしまって……エルベルト様に助けていただかなければ、命はなかったでしょう。改めて、本当にありがとうございました」

 カトリーヌの挨拶に、また驚いたように目を見開いたエルベルトは、瞳を少し輝かせて問いかける。

「魔道具の素材というのは?」

 カトリーヌはエルベルトがなぜそこに興味を持ったのか分からなかったが、相手は竜族なので嘘偽りなく答えた。

「緑光石という素材です。わたしは貴族子女という立場ながら魔道具作製作や研究を趣味としておりまして、どうしても自ら素材採取をしたくて護衛と共にこちらに赴いたのです」
「ほう。魔道具製作が趣味とは」

 嬉しそうに口元を緩めたエルベルトは、カトリーヌに向かって告げた。

「カトリーヌ、ぜひ俺に魔道具のことを教えてくれ。俺は魔道具に関する知識を得るために、今回人間の国に来たのだ。戦闘音に気づいて良かった。カトリーヌたちを助けられたし、案内人も得られたのだからな」

 ニッと笑ったエルベルトに、カトリーヌは自然と笑顔になる。エルベルトの笑顔は人を惹きつける魅力があった。

 神聖視していた竜族だったが、思っていたよりも人間らしく、カトリーヌはそのギャップから親しみを感じてしまう。

(素敵な方だわ。エルベルト様の方から踏み込んでくださるのは嬉しいけれど、わたしの方からは踏み込みすぎないように気をつけなければ)

 カトリーヌは不敬なことをしないようにと、自分を律した。

「もちろん、わたしでよければ知っていることを全てお話しいたします」
「ありがとう。ただここでは場所が悪いな……街に向かってからでも構わないだろうか」
「かしこまりました。では森の外に馬車がありますので、そちらまで移動をお願いしてもよろしいでしょうか。また、ぜひわたしの家に、コルディエ侯爵家の屋敷にお越しください。命を助けていただいたお礼もしたいのです」
「分かった。では訪問させてもらおう」

 そうしてカトリーヌは思わぬ形で竜族の男エルベルトと出会い、共に王都に戻ることになった。
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