愚かな婚約者様、あなたの"浮気相手"は私の味方ですよ? 〜手を組んだ2人の才女による華麗なる制裁〜
7、魔道具開発
コレットが作戦を実行に移している間。カトリーヌは自らにできることをしようと、空き時間で魔道具開発のための研究室にこもっていた。
カトリーヌが趣味の魔道具製作を心置きなく楽しめるようにと、侯爵が屋敷の中に準備した部屋があるのだ。カトリーヌに嫌な婚約をさせてしまったという気持ちがずっとあった侯爵は、せめて他の部分では楽しい人生になるようにと考え、研究室にはかなりの資金が投入された。
そのため、実は国の魔道具研究所と同等の設備を兼ね備えている部屋だ。頻繁に国所属の魔道具師たちも呼ばれており、カトリーヌと意見を交わしている。
「何かコレットが持つことで自衛となるような魔道具を開発できたらいいのだけど……」
呟きながら、カトリーヌは設計図を描いていく。
謙遜して趣味程度と言っているが、実はカトリーヌの魔道具製作、研究の実力は国内で片手に入るほどだ。カトリーヌと話したことがある魔道具師たちは、誰もがカトリーヌを尊敬していた。
そのため、魔道具師たちの中でセドリックへの印象はこれ以上ないほどに悪い。
魔道具師たちも王宮の近くで働いており、仕事で王宮内に入ることもあるため、少し噂を聞いたりするのだ。
魔道具師は職人であり、圧倒的に平民が多い。平民など金を稼ぐ駒だと言って憚らないセドリックが、好かれるはずもないだろう。
「例えば、小さな氷を作り出す魔道具なんてどうかしら」
魔道具とは魔鉱石を始めとして様々な素材を組み合わせて作られる道具の総称であり、基本的に生活に役立つような効果しか発生させることはできないものだ。
例えば人を殺害するほどの威力を、魔道具で発生させることはできない。
しかし、たとえ氷を作り出すだけの魔道具でも小型化してポケットなどに忍ばせておくことができるならば、自衛手段としては有用になるのだ。突然ひんやりとした何かが自分に突きつけられたら、人は誰でも驚いて反射的に逃げる。
カトリーヌは氷を作り出す魔道具の小型化で、ひとまず方向性を固定することにした。
たくさん書いた設計図の中から一つを採用し、さらに詳細を書き込んでいく。
「素材が足りないかも」
魔道具を小型化するには、より弾力性がありつつ頑丈さもある素材が必要なのだ。さらに今回は発現させたい氷に適した素材でなければならない。
「どの素材がいいかな」
呟きながら立ち上がり、壁面に備え付けられている資料棚に向かった。その中から素材がまとめられた本を取り出して、パラパラと捲っていく。
魔道具の小型化は誰でもできることではなく、素材選びや実際の作業など全てにおいて、技術とセンスが問われるものだ。しかしカトリーヌは、そのセンスを十分に兼ね備えていた。カトリーヌは新たな魔道具の研究や開発も得意だが、既存の魔道具の改良も得意としているのだ。
「あ、この鉱石はどうかな」
目を留めたのは緑光石だ。ある条件下の水中にのみ存在している鉱石だが、ちょうど採取可能な川が王都を出て少し歩いた場所にある。
しかし緑光石は採取にも技術が必要で、そこでしくじると素材自体がダメになってしまう繊細なものだ。
つまり、緑光石を使うならばカトリーヌが自ら採取に赴く必要がある。
「あそこなら近いから、許可が下りるかしら」
今までも街の近くなら比較的許可が出ていたのだ。もちろん護衛を伴うことは絶対条件だが。
定期的に騎士団が街の近くを見回りしているとはいえ、やはり凶暴な獣に遭遇する可能性はあり、戦う術を持たないカトリーヌに街の外は危険だ。
「魔法が使えたらいいのに」
思わずそう呟いて、カトリーヌは自らの言葉に苦笑した。
魔法とはこの世界の竜神の眷属たる竜たち、さらにその世話をする一族、竜族だけが持つ特別なものだ。竜族は人間の前に現れることがかなり少なく、おとぎ話のような存在になっているが、確かに存在しているのは皆の共通認識である。
そんな竜族には魔法という、神の力を借りることができる能力があった。雨を降らせたり空を飛んだり火柱を作り出したり、幼い子供なら誰もが例外なく憧れる魔法という存在に、カトリーヌも憧れていた。
今でも、魔法が使えたらなんて思わず考えてしまうほどだ。
「馬鹿なことを考えていないで、素材を決めなければ」
カトリーヌは緩く首を横に振ると、また素材の検討を開始した。
緑光石と組み合わせるのはゴムがいいだろうか。それとも別の金属にするべきか。氷と相性が良いのは金属だが、緑光石と金属を組み合わせるのはかなり難しい。また金属の種類と緑光石との割合も重要になる。
「魔鉱石の変換効率も上げなくては」
魔鉱石とは魔道具の心臓部分のようなものだ。魔鉱石がエネルギー源となり、魔道具は正常に稼働する。もちろん魔鉱石は大きければ大きいほど大量のエネルギーを有するのだが、魔道具の小型化を考える時には小さな魔鉱石しか組み込むことはできない。
そこで、できる限り魔鉱石から純粋なエネルギーに変換する際の効率を良くするのだ。これが魔道具の小型化において最も大切な要素である。魔鉱石は大切な資源であり、比較的高価なものでもあるため、魔道具界にとって大切な要素とも言えることだった。
カトリーヌは魔鉱石にはもっと力が眠っていると確信しており、いつか魔鉱石の研究を進めることが密かな夢だ。もっと効率よく、さらに最大出力も上げられるのではないかと。そして現在は廃棄されてしまう使い終わった魔鉱石の使い道も模索したかった。
セドリックとの結婚でその夢は潰えると思っていたが、コレットのおかげでカトリーヌは夢を持ち続けられるかもしれない。
そう思うと、カトリーヌの頬は自然と緩んだ。
「コレット、ありがとう」
改めてそう呟き、カトリーヌは魔道具開発に意識を戻す。今回の開発はコレットのためのものなのだ。いつも以上に真剣に取り組まなければならない。
緑光石と合わせる金属を決め、魔鉱石の変換効率を少しでも上げるための内部機構を考え、さらに外側のデザインや素材まで決めていく。
忍ばせておくものだからシンプルに、しかし質感は良くしたかった。
最後まで妥協なく素材を選んで設計図を完成させて、カトリーヌは顔を上げた。
「これでいいかな」
達成感に口角が上がる。
結局カトリーヌが自ら採取に行かなければいけないのは、緑光石だけだった。
「お父様とお母様に相談ね」
カトリーヌは部屋を出ると、両親のところへ向かった。
カトリーヌが趣味の魔道具製作を心置きなく楽しめるようにと、侯爵が屋敷の中に準備した部屋があるのだ。カトリーヌに嫌な婚約をさせてしまったという気持ちがずっとあった侯爵は、せめて他の部分では楽しい人生になるようにと考え、研究室にはかなりの資金が投入された。
そのため、実は国の魔道具研究所と同等の設備を兼ね備えている部屋だ。頻繁に国所属の魔道具師たちも呼ばれており、カトリーヌと意見を交わしている。
「何かコレットが持つことで自衛となるような魔道具を開発できたらいいのだけど……」
呟きながら、カトリーヌは設計図を描いていく。
謙遜して趣味程度と言っているが、実はカトリーヌの魔道具製作、研究の実力は国内で片手に入るほどだ。カトリーヌと話したことがある魔道具師たちは、誰もがカトリーヌを尊敬していた。
そのため、魔道具師たちの中でセドリックへの印象はこれ以上ないほどに悪い。
魔道具師たちも王宮の近くで働いており、仕事で王宮内に入ることもあるため、少し噂を聞いたりするのだ。
魔道具師は職人であり、圧倒的に平民が多い。平民など金を稼ぐ駒だと言って憚らないセドリックが、好かれるはずもないだろう。
「例えば、小さな氷を作り出す魔道具なんてどうかしら」
魔道具とは魔鉱石を始めとして様々な素材を組み合わせて作られる道具の総称であり、基本的に生活に役立つような効果しか発生させることはできないものだ。
例えば人を殺害するほどの威力を、魔道具で発生させることはできない。
しかし、たとえ氷を作り出すだけの魔道具でも小型化してポケットなどに忍ばせておくことができるならば、自衛手段としては有用になるのだ。突然ひんやりとした何かが自分に突きつけられたら、人は誰でも驚いて反射的に逃げる。
カトリーヌは氷を作り出す魔道具の小型化で、ひとまず方向性を固定することにした。
たくさん書いた設計図の中から一つを採用し、さらに詳細を書き込んでいく。
「素材が足りないかも」
魔道具を小型化するには、より弾力性がありつつ頑丈さもある素材が必要なのだ。さらに今回は発現させたい氷に適した素材でなければならない。
「どの素材がいいかな」
呟きながら立ち上がり、壁面に備え付けられている資料棚に向かった。その中から素材がまとめられた本を取り出して、パラパラと捲っていく。
魔道具の小型化は誰でもできることではなく、素材選びや実際の作業など全てにおいて、技術とセンスが問われるものだ。しかしカトリーヌは、そのセンスを十分に兼ね備えていた。カトリーヌは新たな魔道具の研究や開発も得意だが、既存の魔道具の改良も得意としているのだ。
「あ、この鉱石はどうかな」
目を留めたのは緑光石だ。ある条件下の水中にのみ存在している鉱石だが、ちょうど採取可能な川が王都を出て少し歩いた場所にある。
しかし緑光石は採取にも技術が必要で、そこでしくじると素材自体がダメになってしまう繊細なものだ。
つまり、緑光石を使うならばカトリーヌが自ら採取に赴く必要がある。
「あそこなら近いから、許可が下りるかしら」
今までも街の近くなら比較的許可が出ていたのだ。もちろん護衛を伴うことは絶対条件だが。
定期的に騎士団が街の近くを見回りしているとはいえ、やはり凶暴な獣に遭遇する可能性はあり、戦う術を持たないカトリーヌに街の外は危険だ。
「魔法が使えたらいいのに」
思わずそう呟いて、カトリーヌは自らの言葉に苦笑した。
魔法とはこの世界の竜神の眷属たる竜たち、さらにその世話をする一族、竜族だけが持つ特別なものだ。竜族は人間の前に現れることがかなり少なく、おとぎ話のような存在になっているが、確かに存在しているのは皆の共通認識である。
そんな竜族には魔法という、神の力を借りることができる能力があった。雨を降らせたり空を飛んだり火柱を作り出したり、幼い子供なら誰もが例外なく憧れる魔法という存在に、カトリーヌも憧れていた。
今でも、魔法が使えたらなんて思わず考えてしまうほどだ。
「馬鹿なことを考えていないで、素材を決めなければ」
カトリーヌは緩く首を横に振ると、また素材の検討を開始した。
緑光石と組み合わせるのはゴムがいいだろうか。それとも別の金属にするべきか。氷と相性が良いのは金属だが、緑光石と金属を組み合わせるのはかなり難しい。また金属の種類と緑光石との割合も重要になる。
「魔鉱石の変換効率も上げなくては」
魔鉱石とは魔道具の心臓部分のようなものだ。魔鉱石がエネルギー源となり、魔道具は正常に稼働する。もちろん魔鉱石は大きければ大きいほど大量のエネルギーを有するのだが、魔道具の小型化を考える時には小さな魔鉱石しか組み込むことはできない。
そこで、できる限り魔鉱石から純粋なエネルギーに変換する際の効率を良くするのだ。これが魔道具の小型化において最も大切な要素である。魔鉱石は大切な資源であり、比較的高価なものでもあるため、魔道具界にとって大切な要素とも言えることだった。
カトリーヌは魔鉱石にはもっと力が眠っていると確信しており、いつか魔鉱石の研究を進めることが密かな夢だ。もっと効率よく、さらに最大出力も上げられるのではないかと。そして現在は廃棄されてしまう使い終わった魔鉱石の使い道も模索したかった。
セドリックとの結婚でその夢は潰えると思っていたが、コレットのおかげでカトリーヌは夢を持ち続けられるかもしれない。
そう思うと、カトリーヌの頬は自然と緩んだ。
「コレット、ありがとう」
改めてそう呟き、カトリーヌは魔道具開発に意識を戻す。今回の開発はコレットのためのものなのだ。いつも以上に真剣に取り組まなければならない。
緑光石と合わせる金属を決め、魔鉱石の変換効率を少しでも上げるための内部機構を考え、さらに外側のデザインや素材まで決めていく。
忍ばせておくものだからシンプルに、しかし質感は良くしたかった。
最後まで妥協なく素材を選んで設計図を完成させて、カトリーヌは顔を上げた。
「これでいいかな」
達成感に口角が上がる。
結局カトリーヌが自ら採取に行かなければいけないのは、緑光石だけだった。
「お父様とお母様に相談ね」
カトリーヌは部屋を出ると、両親のところへ向かった。