麗しの桃は攫われる〜狼獣人の番は甘い溺愛に翻弄される〜

3. 愛とはなんだろう


 それから、5日が過ぎた。

 相変わらず、モモネリアは何も口にしようとしない。
 魂が抜け落ちたように、ベッドの上から窓の外をボーっと眺め一日を過ごしている。

 かろうじて、水は一口、二口、飲んでくれるがそれだけだ。

 身体は少しずつ痩せ、顔色は悪く、栄養不足なのは明らかだった。このままでは、衰弱してしまう。


 リードネストは、モモネリアを心配するあまり、数日寝ていない。


 モモネリアが、やつれていくと同時にリードネストもやつれていった。


 これ以上、何も口にしない日が続けば、モモネリアはどうなるかわからない。

 リードネストは、ズカズカと音を立てて、部屋に勢いよく入ってきた。

 ベッドサイドまでくると両膝をつき屈み、枕に背中を預けて座っていたモモネリアの左手を両手で包んだ。



「モモネリア....頼む!何か食べてくれ!でないと、俺は心配で耐えられない。せめて好きなものを教えてくれないか?....食べたいものを、教えてくれ」



 眉根を寄せて懇願する顔で、モモネリアの手を両手で握ったまま引き寄せ額にくっつける。


 モモネリアとて、まだ若く、生きたくないわけではない。


 食べられるものなら、食べたい。
 でも、どうしても食べる気が起こらず、口元まで匙を運んではおろしてしまうのだ。



 自分が思っている以上に、家族との出来事は彼女の心を傷つけ、攫われた現状と相まって、孤独としてのしかかっているようだ。


 モモネリアは栄養が足りず、回らない頭を動かして考える。



 何か...食べたいと思えるもの。



 そういえば...と、ふとおぼろげに覚えている昔の記憶が蘇った。





 その日は、雨だった。


 幼いモモネリアは、新しい長靴を履いてお気に入りの傘を持って買い物に行きたいとおねだりした。

 そして、顔はわからないが....知らない女性と手を繋ぎ、八百屋まで買い物に行った。

 薄ピンクの丸くて柔らかい、とてもいい香りのする果物を買い、家ですぐに切って食べた気がする。

 口に入れるとジュワっと果汁が溢れて喉も潤った。

 女性は、美味しそうに果物を頬張る私の顔を、ニコニコと眺め満足げに頷く。

 温かい手で頭を撫でられ....女性の口が何か言葉を刻んでいる。

 しかし、何を言っているかまでは思い出せない...。 

 何故か、そんな記憶が頭をよぎり、胸が疼く。



 ....あの果物が食べたい。



 モモネリアは、リードネストが攫ってきたと告げた日から一言も話していなかったが、そこで初めて重い口を開いた。



「....昔、食べたことのある果物が食べたいです。なぜか覚えている記憶で....。でも、なんの果物かわからないんです」


「っっっ!いい!どんなものでも用意する!その思い出を話してくれないか?」




 身を乗り出して聞いてくる、リードネストの勢いに押されながら、モモネリアはその思い出を彼に話した。

 静かに聞いていた彼は、話を聞き終えると、何やら顎に手を当てて思案顔になった。


 そして、顔を上げたかと思うと、「わかった!」とすごい勢いで立ち上がる。

 何事かと驚くモモネリアに、「ちょっと待っていてくれ!すぐに戻る!」と告げて、部屋を猛スピードで出て行ってしまった。




 モモネリアは、呆気にとられながら、首を傾げた。




 あの思い出は、詳しくはわからないが、幼い頃の記憶だろう。

 そして、そこにでてくる女性はおそらく....本当の母なのかもしれない。

 なんでもない記憶だが、思い出す度に心があたたまる気持ちがするからだ。




 ....もし、あの人が本当の母なら....どんな顔をしていたのかしら。思い出せないのが、残念だわ....。




 モモネリアは、また窓の方に視線を向け、じっと眺めるのだった。

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