麗しの桃は攫われる〜狼獣人の番は甘い溺愛に翻弄される〜
カーヴィンという家令も紹介された。
カーヴィンは五十代くらいのグレーヘアと整えられた髭がダンディな印象の男性だ。
目尻に刻まれた皺が、彼の優しげな目元を引き立てていて、物腰が柔らかく穏やかな雰囲気に包まれている。
自分の家では、使用人などいなかったし、家事も全てモモネリアが行っていたため、はじめは驚いた。
それというのも、邸の広さもあり管理のために必要なのだろうが、使用人の数がかなり多いのだ。
一ヶ月経って、漸くほとんどの使用人の顔と名前が一致してきたが、最初は苦労した。
自分がしてきたので、家の管理や人の世話をすることの大変さを知っているモモネリアは、顔と名前を知らない相手にそんなことを頼るのは絶対に嫌だった。
家のことや自分の世話、手伝いをしてくれたら、しっかり名前を呼んでお礼を言いたいし、感謝したい。
そんなモモネリアに、使用人たちはみんな好意的だった。長年共に過ごした家族には酷い扱いを受けていたので、いまだに信じられないほどだ。
でも、血のつながりに縋らなくても、共に過ごした時の長さに縋らなくても、自分をこんなに大切にしてくれる人はいるのだとモモネリアは感じた。
人はこんなにも温かいのだと、初めて知ったのだった。
そして、やはり一番モモネリアに優しく、モモネリアの全てを包み込んでくれるのはリードネストで、そんな主人を見ているから使用人もモモネリアにさらに親切にしてくれるのだろうと思う。
もちろん、そうでなくても、ここの邸の人はみんな親切なのだが。
リードネストは、私がここに来た日のうちに使用人たちを全員集め、私に誠心誠意尽くすよう通達したらしい。
次期は未定だが、後にここの女主人になるだろう人物だと。
そこに関しては、私の気持ちがまだまだ追いついておらず思わず苦い顔をしてしまったが、リードネストもきちんと理解している。
焦らず、関係を迫らず、私のペースに合わせてくれているのがとてもよくわかるからだ。
むしろ、そんな宙ぶらりんな状態なのに、リードネストにも、使用人にも、とてもよくしてもらって、甘やかしてもらって、なんだか引け目を感じる。(まぁ、攫ってこられた身なので、複雑だが)
すると、リードネストはそれがわかってか、「俺がしたいからしているんだ。引け目を感じることなんてないし、むしろ俺の好意を受け取ってくれて俺は喜んでいるんだ。だから、何か返さないといけないなんて考えずに、素直に甘えてくれたら嬉しい」と言う始末。
私に対してリードネストはどこまでも激甘で、私は自堕落な人間になってしまわないかと密かに危惧している。気を引き締めていこうと思う。