麗しの桃は攫われる〜狼獣人の番は甘い溺愛に翻弄される〜
話は戻るが、女主人の話を聞いて、使用人たちは泣いて喜んだと侍女のハルカから聞かされた。
何故泣いて喜ぶのか訳が分からず首を傾げると、主人のリードネストは、一生結婚などしないだろうと思われていたらしい。
仕事一筋で、部下や使用人からの信頼は厚いが、それ以外で他人に関心を持たない人で。それこそ見目は麗しいのに、今まで女性の陰など微塵も感じないほど、女性に興味がなかった、と。
もちろん、狼獣人という種族は番だけを愛することはわかっているが、リードネストは特に女性に冷たく、愛想のひとつも振りまくことはなかった。
かと言って、番を探す素振りもなく、周囲の方がヤキモキしていたみたいだ。
だから、リードネストの両親も、邸の使用人たちも、この家はリードネストの代で途絶えると覚悟していたが.....それがひっくり返って、リードネストの両親も泣いて、跳ねて、喜んだとか。
ただ、みんな私の気持ちや出会いの経緯は知っているので、それ以上せっついてくることはなく、見守ってくれている状態だ。
◇
リードネストの両親とは、一度短い時間だが会うことがあった。
リードネストの父が狼獣人で、母は父の番で人間だと事前に聞いていたが、二人の関係もはっきりしていない今はまだ会いたくないと拒んだ。
だが、「経緯も話しているし、モモネリアの気持ちがまだ俺にないことも両親は知っている。ただ、今回のことを両親からも謝罪したいのだと言われた。だから、少しでいいから会ってやってほしい」と頼まれては、断れなかった。
リードネストの両親は、とても優しそうな二人だった。
会ってまず、リードネストのしたことを謝罪され、私の気持ちは強要しないから、好きに過ごしてほしいと言われた。
その上で、リードネストが何故そんな行為に及んでしまったのか、リードネストがいつか説明するはずだから、どうかリードネストを恨まないでやってほしいと伝えられた。
リードネストは、決して自分のことだけであなたにこんなことをしたのではないのだ、と。
それは....何か理由があって私を攫ったということだろうか。
それ以上、教えてはもらえなかったが、なんとなくそう感じた。
私も、はじめこそ警戒したが一ヶ月共に暮らせば、リードネストが私をとても大切に思ってくれていることくらい嫌でもわかる。
こんな人が自分だけの感情で、私を攫うなどありえないことも。
だって.....私だけじゃなくて、使用人たちもこんなに大切に扱っているのだもの。
リードネストは、使用人たちにとても温かい。
私と同じ感覚を持ち合わせているらしく、してもらったことを主人だから当たり前とは思わない。
きちんと感謝の言葉や労いの言葉をかけているし、使用人に子供が生まれれば、お祝いを渡したり、休みを多くとらせたり。
主人と使用人の関係を超えて、気さくに何でも話せる関係を築いているように見えるのだ。
だから、リードネストの両親の言葉に、詳しくわからなくても私は素直に頷いていた。
余談だが、邸の広さや使用人の数に驚いていたら、家令のカーヴィンが、「旦那様は、この国でも重役を担っておられるので、これくらいは普通ですよ。資産も国中で一、二を争うほどですので、何も心配はございません」とニコニコと話され、腰を抜かしそうになった。
そして、ここだけでなく地方に別邸や、観光地に別荘なんかもあるらしい。
なんだか桁違いすぎて想像できなかったので、諦めた。
まぁ、そんなこんなで。
攫ってこられたくせに、なんだか馴染んでしまって。
なんなら居心地がいいなぁ、と感じるモモネリアだ。