麗しの桃は攫われる〜狼獣人の番は甘い溺愛に翻弄される〜
心地よさに片目を瞑りながら、モモネリアは少し拗ねた声で言い返した。
「....ん。....もう。その呼び方、恥ずかしいんだけど」
「....ふ。いいだろう?俺にとったら、この世でたったひとりの愛しいお姫様なんだ」
リードネストが以前モモネリアの昔の記憶を頼りに探してきてくれた果物は、「桃」というらしい。
リードネストが暮らすトーリェンシア国は元々モモネリアが暮らしていたミネトーネ国とナターシェリア国に挟まれる形で位置している。
「桃」は、ミネトーネ国とは反対側の隣国ナターシェリア国が原産地で、果肉は甘くてジューシーで女性に人気があるらしいが、とても柔らかく傷がつきやすい。
そのため輸入にはあまり向かず、自国、トーリェンシア国内で栽培されたものが出回るくらいなのだ。
ただ、気候が安定しないこのトーリェンシア国では、栽培数も伸びず、それ故に高価でとても希少だ。
モモネリアがあの瞬間にそんな桃を食べられたのは、奇跡のような偶然が重なったからである。
リードネストが昔仕事で行った場所に希少な桃の木が生えていたのを覚えていたこと。
今年は気候に恵まれ、育ちにくいこの国でもあれだけたくさん実をつけたこと。
モモネリアが食べたいと求めた時期がちょうど桃の旬の時期だったこと。
そのおかげで、運良く手に入り、モモネリアは母との宝物の記憶に思いを馳せることができた。
そんな奇跡を起こしてくれたリードネストには、感謝してもしきれない。
あの出来事をきっかけに、母に愛されていたことを思い出し、生きる気力を得たのだから。
リードネストは、「モモネリアの愛らしい名前にも同じ響きが入っているし、大切に守らないと壊してしまいそうなほど可憐で小さくて可愛い。髪の毛の色や瞳の色も、瑞々しい桃のように美しい。そして、モモネリアは俺の唯一無二の番で俺だけのお姫様だ」と溺愛ぷりを見事に発揮する理由をつけて、『桃姫』と時折呼ぶようになったのだ。
身長が190センチを超えるリードネストにとったら、女性の平均身長であるはずのモモネリアでも小さく感じるらしい。
ちなみに、桃をもいで戻ったリードネストが負っていた怪我は、翌日にはほぼ完治していた。
リードネスト曰く、獣人は元々体が強く怪我を負っても治りやすい傾向にあるという。
特にリードネストは、体質なのか、他の獣人よりもその傾向が強いと聞いた。
まるで魔法みたいで、思わずペタペタ腕や顔を触って確かめてしまったら、リードネストが真っ赤になりながらなぜか喜んでいた。
それでも、痛かったものは痛かっただろうと気遣うと、「大切なモモネリアが笑ってくれたんだ。痛さなんて吹っ飛んださ。それに、こうしてモモネリアが俺に触れてくれたのだ。むしろ役得だったと思うが?」と真面目な顔で言うものだから呆れた。
そんな出来事を含め、モモネリアは今までのリードネストを思い返す。
照れて顔を赤く染めながら、ぷいっとわざとむくれてみせた。