麗しの桃は攫われる〜狼獣人の番は甘い溺愛に翻弄される〜
モモネリアに向ける顔とは、まるで違った。
それを見て、モモネリアは何故か胸を撫で下ろす。
....え?どうして、私、ホッとしてるの?
胸に手をあて、掌をぎゅっと握る。
変だ。リードネストが、あの女性に笑いかけていないことが嬉しいだなんて。
あの甘い笑顔を向けるのは.....私だけであってほしい、なんて。
そう自覚した途端、自分がひどく独占欲の強い狭量な人間に思えて、モモネリアは恥ずかしくなった。モモネリアが混乱しながら、再び、視線を二人に向けるとーー。
リードネストが笑っていた。なんとも愛おしげに、頬をほんのり染め、優しげに目を細めている。
モモネリアに向けるものと同じ、あの、特別なはずの笑顔ーー。
モモネリアを、固いもので頭を殴られたような衝撃が襲った。何も考えられなくなった。
......見たくない。
そう思うより早く、モモネリアの身体は勝手に踵を返して、その場を離れていた。声は聞こえなかった。何を話していたのかは、わからない。
でも、カーヴィンやハルカ、他の者から、リードネストは女性に興味がなかったと聞いている。
それなのに、あの笑顔を.....先日までモモネリアに向けてくれていたはずの、あの胸を締めつけるような笑顔を....自分以外の女性にも向けていた。
その事実だけで、モモネリアの心はひどくいたんで、苦しくて。モモネリアは、逃げたのだ。
涙が、ぽろぽろと溢れて止まらない。
......私以外に、あんなに優しく笑わないで。
......どうしてその女性の隣にいるの?私には....最近食事のときでさえ、会ってくれなかったのに。
........私を見てよ。その子を見ないで。こっちを、向いて。
さっき見た光景が頭の中をぐるぐるまわり、心の中がそんな醜い思いで真っ黒に染まっていく。
......馬鹿みたい。これじゃ、まるで....嫉妬、だわ。
モモネリアは、この日、初めて『嫉妬』という感情を知った。
.......リードに会ってから、知らない感情に出会ってばかり。
リードに会って、愛されることを知って、ただ相手に喜んでほしいと思える温かい気持ちを知って......独占欲や嫉妬みたいなドロドロした黒い気持ちを知った。
........こんな私、きっとリードは嫌になるわ。
.........私は.....どうしたら、いいの?
その時。
必死に駆け込んだ自室のドアがノックされた。