麗しの桃は攫われる〜狼獣人の番は甘い溺愛に翻弄される〜

 どちらからともなく、身を寄せ合って座り直す。
 モモネリアはリードネストの大きな胸に背を預けた。

 リードネストはそんなモモネリアを後ろから両腕でそっと抱きしめながら、ふわふわ流れる桃色の髪の毛を指先にくるくる巻いて遊んでいる。

 そうして、どれくらい経っただろうか。
 ふいにリードネストが尋ねた。

「.....そういえば、この間はどうして会いにこないで、なんて言ったんだ?」

 モモネリアが、ピクッと小さく肩を震わせる。

「あ.....。そう、よね。あのね、私こそ誤解を与えてしまったと思って。あれはね、会いたくないとかそういう意味で言ったんじゃなくてね。......これを、作る時間が欲しかったの」

 身を起こしてモモネリアが立ち上がり、机の上の小さな紙袋を取って戻ってきた。

 再びリードネストの隣に腰掛け、目の前で丁寧に中身を取り出す。

 カサッと音がして、出てきたのは二つの小さな包みだった。透明なラッピングに深い青のリボンがかけられている。

 一目で自分に対する贈り物だと、わかった。

「これは.....俺に?」

 モモネリアが照れながら、頷く。

「えぇ。....初めて作ったから、少し不格好になってしまったのだけれど....心をこめて、刺したの。よかったら使って?」

「.......嬉しい。すごく嬉しいよ、モモネリア。ありがとう。....開けても?」

 尻尾はブンブン振られているのに、感極まって泣きそうな表情になっているリードネストに、モモネリアはくすりと笑ってしまった。

「もちろん」

 早速、カサカサと慎重にラッピングを解いていく。


 一つは手作りのクッキー、一つはリードネストのイニシャルと狼のモチーフを刺繍したハンカチ。

 リードネストは、目の前に現れた愛しい番からの初めての贈り物に目を輝かせる。


「......最高だよ。こんな素晴らしい贈り物はないよ。大切にする、モモネリア。ありがとう。このハンカチは肌身離さず、持ち歩くことにしよう」

 喜んでもらえたことに、ホッとして、くすぐったくて、モモネリアはモジモジ身体をくねらせた。

「この犬のクッキーも、モモネリアが焼いたのか?」

「.....狼よ」

 狼を犬と間違えられて、じと目を向けたモモネリアだが、リードネストにはそんな顔も可愛くうつるらしい。

 軽く睨んだはずが、それはそれは甘い笑みで返され、呆れてしまった。

 
 ......この人には怒っても伝わらないんだったわ。


「.....そうよ。邸の料理長に教わって。味は、確認済みだから大丈夫よ」

 気を取り直して、ふふ、と笑って答えるモモネリアを、喜びに震えるリードネストが見つめる。


「.....はぁ。幸せすぎて怖いな。.....実はモモネリアに、嫌われたと思って落ち込んでいたんだ」


「......ごめんなさい。やっぱり誤解させていたのね。.....何となくそうかもって思ってたんだけど、リードを怒らせたかもしれないと思って、言いにくくなってしまって」


「俺が、モモネリアに怒ることなんてないよ。可愛くて可愛くて、大切で大切で、好きで好きで、好き過ぎて、仕方ないんだから。きっと俺は一生モモネリアに怒ることなんてないと思う」

 真顔で力説するリードネストは、やけに熱がこもっていた。

「モモネリアは獣人の番への愛と執着を甘くみすぎだ。俺は何があってもモモネリアを絶対に離さないし、モモネリア以外興味もない。お前だけだ。モモネリア以外に触れたいとも思わないし、お前以外に触れられるのも気分が悪くなる。獣人にとって、番は唯一無二だ。俺をこんなに虜にするのはお前だけなんだ。.....これからゆっくり教えていこう」

 ニヤリと笑ったリードネストの顔を見て、ゾクッと何かが背を這った感覚がしたーー。






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