麗しの桃は攫われる〜狼獣人の番は甘い溺愛に翻弄される〜
「........男性の使用人に、モモネリアと接触しないよう配慮を頼んだ」
「...............」
......えっと、どういう意味だろう?
モモネリアはしばらく考えたが、さっぱり意味がわからず、首を傾げた。確かに、この邸に来てから男性の使用人には会っていない。
カーヴィンだけだ。
すると、カーヴィンが静かにモモネリアに呼びかけた。
「.......奥様」
「......はい。........ん?.....お、奥様?」
カーヴィンのモモネリアに対する呼び方が、変わっている。
いつからだ?.....確か、今までは「お嬢様」とか「モモネリア様」って呼ばれてた、ような?
「はい、さようでございます。奥様。旦那様から、これから奥様と呼ぶように仰せつかっております故」
爽やかな笑顔で、そう告げたカーヴィンにモモネリアは動揺した。リードネストを見れば、当然とでも言うたげに真剣な顔つきで大きく頷いていた。
.......えぇっ、いつの間に?
........じゃぁ、雰囲気を察知してたのではなく、私たちの両想いは既に周知の事実だったのね。
「......まだ結婚していないわ」
「いずれ、そうなる。それに、俺は獣人だ。獣人が番と出会い、一緒に住むということは婚約同等の意味を......いや、それ以上の意味を持つ。もちろん、この国の正式な手続きをきちんと踏む準備も、現在しているが。すでに俺の中の認識は、モモネリアは番であり、婚約者であり、妻なんだ。俺だけでなく、両親や使用人の認識でもな。モモネリアと気持ちが通じあい、モモネリア自身も俺を受け入れてくれた今、尚更、逃がすつもりはない」
カァっと顔に熱が集まる。
........でも、嬉しいわ。
モモネリアは、改めてリードネストと両想いになった実感が押し寄せてきて、くすぐったくなった。
そんなモモネリアの様子を、カーヴィンは微笑ましげに見つめたあと、再び話し始めた。
「......奥様。旦那様は例え使用人でも、他の男性の目に奥様が晒されるのが嫌なのですよ。だから、奥様がここに来てすぐ、使用人一同へ通達したんです。毎日、奥様の予定を共有して、奥様が出歩くであろう時間は男性の使用人は必ず奥での作業に切り替えるように、と。つまり、綿密に入れ違いにさせて、奥様と男性の使用人が接触しないよう取り計らわれているのです」
モモネリアは、ポカーンと口を開けたまま固まった。
「......えっと、それは.....」
しばらくして、状況を理解したモモネリアは、おそるおそる聞き返す。
「.....えぇ、そうです。旦那様の独占欲と嫉妬心からです」
「ゔっっ!!」
ハッキリ言われてダメージを受けたのか、リードネストが左胸をおさえた。
「.......全然知らなかったわ。リードは、いつも優しいし、私が何かお願いしてもいつもサラっと聞き入れてくれるから」
戸惑っていると、カーヴィンはさらに補足した。
「奥様がご存知ないのも、無理はございません。旦那様は、奥様のために何でもなさりたいのです。奥様が望んでいらっしゃることは、出来る限り叶えて差し上げたいのでしょう。旦那様の独占欲や嫉妬心は、奥様を愛するが故です。奥様の希望で街に出られた際は、奥様の見ていないところで、奥様に熱い視線を送っておられる殿方に睨みをきかせておいででしたし。牽制でしょうね。この見た目の旦那様に、睨まれた殿方は、さぞ恐怖を感じておられたことでしょう」
うんうん、と深く頷きながら話すカーヴィン。
リードネストは、途中で何度も話を遮ろうと、「あっ」とか「うっ」とか言葉にならない声を発していたけど、カーヴィンは構わず話し続けている。
話してくれる内容が、ものすごく羞恥を煽られるもので、モモネリアは赤面してしまった。
それにしても、使用人たちに思わぬところで苦労をかけていたとは。なんと申し訳ないことか。
............後で、リードと要相談だな。