世間ではぐうたら令嬢ですが、実は拳姫と戦場で呼ばれております。
第21話 見極めの模擬戦、そして
訓練場に雷の気配が立ち上る。
正面には、雷の剣を携えた長女・セリア。
右側には、巨大な盾を構えた長男・アレク。
その二人が、完全に戦闘態勢で構えている。
「手合わせ、というより尋問じゃないのかこれは……」
ゼロスは無意識に呟いていた。
しかし、それでも逃げるつもりはなかった。
理由は単純――彼女の家族に、認めてもらうために。
構えた|魔槍《アズレアの刃先が、陽の光を受けて青く煌く。
「行くよ、ゼロス!」
アレクの号令とともに、空気が一変する。
まず突っ込んできたのはアレクだった。
「重っ……!」
巨大な盾が風を裂いて突進してくる。
まるで動く壁のようなモノがが迫ってくるような圧力に、ゼロスは即座に横跳びでかわす。
「っ、遅いようで速い――……っ!」
アレクの動きは読みにくい。
見た目の重さに反して、訓練された足運びでしっかり距離を詰めてくる。
そこへ――後方から、セリアの雷刃が走った。
「隙があるわ」
何事もないかのように、冷たい瞳を見せながらそのように答えるセリア。
稲妻を纏った剣が空を切り、ゼロスの肩をかすめる。
「くっ……!」
即座に槍を旋回させて距離を取り直す。
――だが、容赦はない。
セリアは冷静そのもの。
まるで兄妹での連携が前提のように、ゼロスの動きを読みきって詰めてくる。
(なるほど、確かに手加減なしだ……!)
ゼロスは息を整えながら、槍を構え直す。
だが、追撃の気配はなかった。むしろ、妙な静寂が場に漂う。
その理由は――柵の向こうから聞こえたあの声だった。
まるで突拍子もないかのような、そんな声で突然彼女の声が響き渡るのである。
「え?ゼロス様、なにしてるの?」
ぽてぽてと近づいてきたのは、半分寝ぼけ眼のレイリアだった。
ふかふかのクッションを片手に、軽くあくびをしながら訓練場に現れたその姿は、あまりにもこの場にそぐわなかった。
「え、なに?決闘?もしかして、ゼロス様が姉さまと兄さまに喧嘩売ったの?やめておきなよー強いよ特に姉さまは」
「それは違いますレイリア様……完全に逆です。こっちが売られてます」
「えー……朝寝しようと思ってたのにぃ……」
ふにゃっとした声でそう言いながら、レイリアは柵に寄りかかって腰を下ろす。
ゼロスは、一瞬だけ剣と盾の構えを崩していた姉と兄を見やる。
セリアが小さく溜息をついた。
「……本当にあの子、全然気づいてないのよね。人の気持ちにも空気にも」
「そういうとこが可愛いんだけれど……それだけに、心配になるんだよ」
アレクの顔にも、真剣な兄としての想いが滲んでいる。
「レイリアに本気で向き合う気がないなら、ここで引いてもらう。中途半端なら許さないけど」
「……向き合うつもりです……本気で」
ゼロスの瞳が、真っ直ぐに二人を見据える。
「俺は……ぐうたらで、気まぐれで、自由気ままなあの人が……羨ましいと、思ったんです。戦場でもそれ以外でも」
「……羨ましい?」
「ええ。俺にはないものを彼女は沢山持っている……それを、近くで見ていたいと思ってしまった……それが、始まりでした」
淡々と語る言葉のひとつひとつに、確かな熱があった。
アレクとセリアが視線を交わす。
「――認めるには、まだ足りないけれど」
「……少なくとも、誠意は伝わった」
剣と盾が下ろされる。
ゼロスは少しだけ肩の力を抜いた後、再度レイリアに視線を向ける。
そこにはめんどくさそうな顔をしながら、そして眠そうにしている彼女の姿。
聞いていないな、とゼロスは思って口にした。
「っていうか、今の聞いていませんでしたよね?レイリア様」
「うーん……ちょっと聞いてた。よくわかんなかったけど、なんか褒められた気がした……あ、ゼロス様って、私のこと好きなんですか?」
「ふぐっ――」
ゼロスの顔が一瞬で真っ赤になる。
セリアとアレクが即座に顔を覆い、リディアは椅子から転げ落ちた。
「ちょっ、レイリア、それ爆弾すぎるってば!」
「その反応、天然でやってるんだよなぁ……恐ろしい妹よ……」
「え?私、何かなんかまずいこと言った?」
ぽかんと首を傾げるレイリアに、ゼロスは耳まで真っ赤にしながら言葉を絞り出した。
「そ……そういうことは、もう少し、タイミングというものを……!」
「えー……じゃあ、次寝起きの時にまた聞くね」
「それはそれでタイミング最悪では……!」
――ゼロスの受難の日々は、まだまだ続きそうだった。